『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
「おいおい、随分と話が大きくなってきたじゃないか」

 ラバルナの瞳に何かが宿るのを感じた。

「竜退治の次は、古代の英雄を救うってことか? これじゃ本命の教王国(おやじ)を倒す前に体がもたないって」

 ケラケラと笑い出し、すくっと立ち上がる。
 私たちの話を信じているのか、ハッキリいって確信はまったくもてない。

「信じるの? 全てが仮定の上に成り立っているのに」

「確かに、全てが空論の域をでない曖昧かつ都合の良い解釈でしかない可能性は非常に高い。だが、あの砦の中には得体の知れない存在がいて外にでたら多くの人が死ぬのは確実だ。教王国も滅ぼしてくれても構わないが、それは俺たちがやることだ!! 誰にもそれは譲れない」

 それだけで十分だと言わんばかりに、ファルスさんを率いて外に出ていく。
 私たちも後をついて外に出ると、多くの兵たちがこちらの言葉を待っている。

「待たせた! 既に噂は聞いていると思うが、あの泉にはどうやら我々の知らない存在がいるらしい。それに飛び切り強いときた」

 ザワザワ、近くから遠くへと騒がしが伝達していく。
 声の届かない人へは伝言が届けられる。

「逃げるか? あの砦からいずれ外へと放たれたヤツらは人を襲い始める」

 ごくりと唾が飲み込む音が聞こえてきそうだ。
 
「怖い、人間は未知という存在に対し臆病にならざる得ない。しかし、想像してみろ。暴れ出したヤツらが村を襲い愛する人が殺されるところを」

 サワサワと先ほどまで湿り気を帯びていた風は、今になってようやく乾き出している。
 それは心地よく、べったりと張り付いた髪や衣服を心地よくさせていく。

「もう一度問う! 逃げるか――⁉ 俺は向かう、この世界を光ある場所へと導くと誓ったのだから、それを違えない。己の愛する地と人を護れるのは己の刃だけである!!」

「「「…………」」」

「自らを英雄とせよ。誰が英雄は一人だと決めた!!」

「「「……ホ……ホウ……ホウッ! ホウッ!」」」

 兵たちの足が力強く砂を踏み鳴らし始める。
 武器と盾を叩き、勇敢な音が陣を包み込んでいった。

「諸君らの活躍に期待する。あの砦をヤツらの永遠の墓としてやろうではない」

「「「ホッホホウッ! 自らを英雄に!!」」」

 今度は私の番だ。
 私の都合で付いてきてくださった人たちにも伝えないといけない。
 陣地の外で待機している場所へ向かうと中の熱気にあてられたのか、既に興奮している。

「レイナ様、もう何も言わずともよいです。我々はあなた様についていくと誓っております」

「え?」

「彼の血は信用しておりませぬが、言葉は確かにここに響きました」

 トンっと心臓を軽く拳で叩き、笑顔を私に向けてくれた。

「我らはこの地へ赴いた段階で既に、命をレイナ様へ預けております。それに、私にも妻や子がおります。未来を護れるのは我々しかおりません」

 頷く兵たち、なんて心強いのだろう。
 そして、そんな人たちを死地へ誘う私を許してほしい。 だから、全力で勝つ方法を模索していく!!

「ソマリお願い力を貸して」
『もちろんよ、それにラバルナってカッコいいのね』

 フンっと鼻で笑ってしまう。
 先ほどまで得体の知れない魔人の存在に怯えていたと思ったら、今は軍を鼓舞していた。
 その切り替えの早さも凄いけれど、なんだろう……まだちょっとわからないけれど、これが王家の血筋なのかもしれない。

 体の周りに光が集まっていく。
 
「おぉ――! 聖女様の加護を」

「「加護を!!」」

「我らは砂漠を照らすレイナ様の刃であり盾である!! 全ての障害を廃し、安寧の地へと誘う先遣隊である誉を胸にいざ参る!!」

 ジャマルにまたがり、歩兵は兜をかぶり、弓兵は矢を背負い全員が私を向いてくれた。

「行きましょう、彼とは別に行動します! 無理だけはしないでください。命を護るのも大切なことです」

 私もジャマルに乗り全体の流れを見る。
 ゼイニさんが率いる部隊も私たちの後ろに待機してくれていた。

 ゾロゾロと準備が整ったラバルナたちが動き出していく、先頭はもちろんファルスさんが率いている。
 
「レイナ隊! 動くわよ」

 こちらも足並みを揃えて動き出していく。
 足の遅いラバルナ隊を抜いて、左翼に展開し泉へと向かっていった。

 敵の戦力は把握できていないが、本当に噂に聞く魔人ならば一騎当千の強者であることは間違いない。
 それに死者が増えると、更に封印が解かれる可能性もあるので、慎重に行動しなければならなかった。

 
『怖いの?』
「あら、初代聖女様は化け物退治で怖い経験はないのかしら?」
『そうね、本当に怖いのは人間の心だって知ったときから大抵のモノに恐怖心は抱かなくなったけれど、竜退治の次は魔人討伐? 凄いじゃないレイナ』

 褒められていると受けとっておこう。
 目の前には泉の手前に築かれた小さな砦があり、殆ど痛んでいないのをみると戦闘は行われずに撤退したのだろう。

 ファルスさんが私たちの姿を確認すると、右翼に移動した。
 ラバルナ隊を中央に据えて、三つの部隊が泉へと向かっていく。
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