『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
「うぎゃああ!」

 また誰かがやられた。
 ファルス隊も苦戦している。
 ゼイニさんたちの弓隊もこれ以上は援護ができないだろう……だけど、砦からの増援は無くなり戦況は膠着状態だったが、ついに彼が道を開いた。

「おしゃぁ! 俺様の出番だな」

 ラバルナが率いる重装部隊、足は遅いがその装備と練度は教王国の正規兵を凌ぐと言っても過言ではない。

「よっし! レイナ隊も相手を押すわよ、神話世界の遺物を我らが砂漠から追い出しやりましょう!!」

 指笛を吹くと、私のジャマルが現れてそれに乗ると、今度はサーベルを構えて全体を指揮し始める。
 たった二十体そこらの敵にこれだけ苦戦するなんて信じられない、戦場の真ん中をラバルナ隊が突撃し途中で魔人を狩り始めた。

「よお、随分数が減っているじゃないか、さすがだな」

「えぇ、でも一番美味しいところはもっていくのね」

「当たり前だろ、それが楽しいんだからな」

 お互い小さく笑うと、戦場に戻っていく。
 ラバルナ隊が合流したことで、ファルス隊も生き返り魔人たちを砦に追いつめていった。
 最後の一体を倒すと、門をこじ開ける。

「この砦の門は三つある。二つ目まで突破できたが三つ目で籠られたが、おそらく魔人の封印もその近くだろう」

 バンッ! 魔人たちが閉じた扉をこじあけると、兵たちが一斉に入り込む。
 しかし、敵の存在は確認できなかった。

「主……魔人どもがおりませんぞ」

「おかしい、先ほどまで外であれだけ抵抗したのに、急になぜだ?」

 注意深く進むと、第二の門が見えてこれもなんの抵抗もなくこじ開けられた。

「?」

 周りの兵たちも何が起きているのか困惑しはじめる。
 
「まさか、全部倒しちまったのか?」

 それはない、魔人の目的はおそらくイフリートを消すこと……⁉

「まさか、砦の外で戦ったのは私たちを足止めするための部隊? 本命のイフリートを倒すまでの時間稼ぎってことだとしたら?」

「おっと、それはマズイな……もしイフリートが消されこの砦に施された封印が一気に解放されてみろ……周りは魔人だらけになっちまうぞ!」

 それを聞いたファルス隊が一気に動き出した。
 ジャマルを巧みに駆使し、奥へと突き進んでいく。
 私たちもその後をついていく、そして最深部へと到着すると多くの魔人が待ち構えていた。

「レイナ様、どうやらまだ封印は解かれていないようですな!」
「えぇ、でも急ぎましょう」

 二十体ほどの敵が最後の門の前で雄たけびをあげて威嚇していくる。
 だが、もう誰も恐れない――イフリートは消させない!!

「レイナ! 行け、ここは俺たちがなんとかする。足の速い兵を連れて行くんだ。この先は細くなっている多くの兵は通れない」

 後方からラバルナ隊も到着し、砦の前は大混雑してしまう。
 一騎当千の魔人たちが武器を構えて突撃してくる。
 盾を構えたファルス隊がそれを受け止めて、戦闘が開始された。

「わかった! それじゃあ誰かついてきくれるかしら?」

 私の呼びかけに応えた人を率いていく、血路は全員が開いてくれる。
 
「扉は自らの力で開くもの、閉ざされた門は壊せないなんて誰が決めた?」

 ラバルナがサーベルを構えて突撃を命じる。
 一斉に動き出した兵たちが魔人たちを追い詰めていく。

「レイナ隊、動くわよ。これから建物の中に入る。気を付けて」

 ファルス隊が前で奮戦し、ついに門の目の前に到着する。
 
「こじ開けろ! そして進めぇぇ!!」

 ドンッドンッ。
 バゴンッ!!

 軽く、安っぽいつくりの門は簡単に開かれ、中には教王国兵の亡骸が床を埋め尽くしていた。
 酷い……だけど、このままではこれ以上の悲劇が世界を襲ってしまう。
 
「レイナ隊行くわよ!!」

 奥から数体の魔人が出てくるが、ファルスさんが横を通っていく。

「この老兵、レイナ様の刃となりますぞ!」
 
 石斧をひらりとかわし、左腕を斬りつけた。
 叫喚が聞こえ、それに続くようにファルス隊が魔人と対峙した。

「ファルスさんありがとう!」

 目で合図を送ってくる彼らに対し、私たちは一気に奥へと進んでいく。
 次第に血の匂いが遠のいていき、カビと埃に混ざる魔人独特の香りが強くなっていった。

「気を付けましょう」

 十人ほどで建物の中を進んでいく、正直いうと天井はかなり低く敵は身動きがかなり取りづらいだろう。
 所々、ぶつかって破損した家具や装飾を目印に進んでいくと、目的地に自然と辿り着いてしまう。

「止まって!!」

 通路の先から風が通り始める。
 それは冷たく、かなり湿り気をおびていた。

(近い?) 
 
 剣を構えて静かに進んでいくと、奥に洞窟の入り口が見える。
 中に入ると、苔が生えた階段が下へと続いていた。

「気を引き締めて行くわよ。大丈夫、あとからラバルナたちも駆け付けてくれるから」

 私たちは生唾を飲み込んで洞窟へと足を踏み入れた。
< 37 / 44 >

この作品をシェア

pagetop