『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
目覚めはこの世界にきて一番悪いと言っても過言でないくらい、体が動かなかった。
無理やり爺に起こしてもらい、急いで給仕の人たちに手伝ってもらいながら婚儀の準備を進めていく。
「まったく聖女様、今日がどれだけ大事な日なのかあなたはご存じないのですか⁉」
語尾になるにつれて口調が険しくなっていく。
相当イライラしているようだった。
私は何も考えることができずにおり、ただ憂鬱の中を漂うだけの抜け殻になっているような気がしてならない。
昨日のソマリだって、実は夢なのって言われると信じてしまう。
「私が私でいられる最後のとき……」
今日の昼には第二王子との結婚式が予定されていた。
まだ顔も知らない存在に私は嫌とも楽しみともとれない、複雑な感情しかもてないでいる。
「まったく、奥様が知ったら大変なことになりますぞ」
私が聖女の資格があると知って、この家に買われてしまう。
だから、本当の父と母の姿を私は覚えていない。
だからと言って、今の義母の姿を覚えているのかと問われると、それは否である。
「お義母さま……」
一度だけ、この家の庭で遊んでいるときにチラッと横顔を見たことはあるものの、ハッキリと姿を見たことはない。
だって、私は元居た世界でいうならビジネスの道具でしかなく、自分の家が甘い蜜を吸う事以外考えていないのかもしれない。
そのとき、窓の外に数羽の鳥が真っ青な空へと羽ばたいていく姿が目に入ってくる。
「鳥は羽ばたくもの」
「そうです。鳥は空を飛び、平民は税を貢ぎ聖女様は聖女として生きるべきなのです」
爺が私の小言に対し言ってきた。
それはつまり、こちらに自由など無いと言っているようなもの。
「わかっております。私は聖女として仕事をまっとうします」
「仕事? えぇ、存分に励まれてくださいませ、どうか心より願っております」
嫌味な感じのいい方に不快感を覚えてしまう。
そんな私の心の内とは関係なく、準備は進められ純白のドレスとベールを身に着けると、そのまま馬車でお城まで送られていく。
もう、自分の歩きたい道は歩けないのかもしれない……だったらせめて内側からでも世の中が良くなれれば、ソマリーー今私にできる精一杯をやってみるわね。
お城に到着すると、爺はさっさと馬車に乗り来た道を戻っていく。
取り残された私に兵士が周りをがっちりと囲み、淡々と歩かされた。
そして、ある部屋に通されるとムワっと強烈な香水の香りにせき込みそうになる。
「おぉ、来たか」
ボソッと気だるそうな声に視線を向けると、そこには二人の美女に囲まれ朝からお酒を飲んでいるのか真っ赤な顔の男性がいる。
歳は今の私とあまり変わりないように見えるが、おそらく年上だろう。
「こりゃ、随分と貧相な女だな……それに礼儀知らずときたか」
周りの兵士たちがザワっとしだし、小声で私に伝えてくる。
「あの方が聖女様の旦那様となられる……」
「え?」
私は慌てて前に出て、膝をつくと頭を下げてこう述べた。
「大変失礼いたしました。私はレイナ・アストレアと申します。この度は」
「あぁ、うん、もういい」
急に言葉を止められ、さらに面倒のような感じで周りの美女たちを遠ざけると、私の近くへとくる。
「二年だ、二年で俺の子を産め。それ以上は待たない」
唖然とした。 何をこの人は言っているのだろうか?
「そ、それはどういった意味でしょうか?」
ちらっと視線だけ上にあげると、単発の黒髪できりっとした目をしていおり、とても整った顔の人物だ。
だた、酔っているのか瞳は常に動いており、それは私の姿を捉えていない。
「なに? バカなのか? 俺は誰にも縛られたくない、国のなんちゃらでお前のような平民を抱くなんて考えられないんだよ。だから期限は二年だ、それ以上はお前を抱く理由がない」
嫌悪感に包まれていく。
こ、これが初代聖女として活動した彼女が言っていた現実なの? 私も愛のない結婚なんて嫌だ。
だけど、だけど! そうでもしないとこの世界を少しでも良くはできない。
「し、しかし、恐れながら申し上げますと、私にも聖女としての務めがあり、より良い世の中にすべく努力を……」
その瞬間、ベールを無理やりはがされると私の髪の毛を掴み、無理やり顔をあげさせられた。
「い、痛い!」
「おいおいおいおい! お前、何か勘違いしてないか? 聖女? ヘッ! あんなお飾りに仕事なんざねぇよ。次の聖女候補が現れるまでお前はただいるだけだ、いい生活だろ? 何もせず、俺に抱かれているだけで何不自由のない生活が二年は約束されているんだ。平民のお前にはもったいない生活がな‼ 聖女はお飾りなんだよ? わかるか? 役目ってのは唯一あるなら、その名を借りて俺たちは貧乏人たちから金を貰う。そのための道具となれ」
そう言って、バンっと乱暴に手を離された。
後ろで見守っている兵士たちはガクガクと震えて何もできないでいる。
「……いる」
「あ? なんだ? 文句でもあるのか?」
今度は蹴りを入れようとしてくるのを無意識に私の腕がとめた。
「は? なんだ? やろうってのかよ?」
私の中で何かが囁く、それはずっと眠っていた心を強くたたき始めた。
『レイナ、お願い。これが現実なの……あなたならできるわ』
わからない、何ができるって言うの? でも先日の市場でみた人の顔が脳裏に浮かぶ、こんな世界が許されるなんて、それは聖女という姿を使いさらに貪ろうとしている。そんなこと私にはできない!
ただ敷かれたレールの上を走るために生まれたんじゃない、ソマリお願い力を貸してちょうだい、あなたが私にこの世界を変えられ可能性があるっていうのなら、少しでも光ある方向へと変えてみたい。
『ありがとう、大丈夫よ。私がずっと傍にいるから安心して』
「おい、なんとか言えよ! どうせ顔は隠れるんだ、少し傷ついても誰も気が付かねぇだろ」
ぐっと、掴まれていないもう片方の足で私を蹴ろうとするが、ズッと力を入れて足を引き込むとバランスを崩してお尻から床に倒れてしまう。
なんてみっともない、慌てた兵士たちが駆け寄ろうとしていた。
私は立ち上がり、ギリっと相手を見下ろして告げる。
「腐っているって言ったのよ! その反吐がでる息で私に話しけないでください、この場をもって婚約は破棄とさせていただきます! そして、今をもって聖女としての資格も捨てます」
首に飾られた白銀のネックレス、これは私を聖女として縛り付けている物、こんなものは必要ない。
ゆっくりと外し、目の前の男に向かって投げ捨てた。
「ぶっ! こ、このクソがぁ‼ 殺せ、殺すんだ!」
「し、しかし、相手は……」
「うるせぇ、俺が殺せって言ってるんだ殺せよ! できないなら、俺がやる!」
椅子に戻り、宝石に彩られた剣をもって私に向かってくる。
兵士たちは何をしてよいのか理解できないでいるスキを狙い、腰から剣を奪った。
「な! 正気なのか⁉ おやめください!」
不思議、私は剣なんて一度も扱ったことなんてない、だけど体が勝手動いてくれる。
スッと構えると呼吸を整えていく、あぁソマリあなたって随分と活発だったのね。
彼女の気配が私を包み込み、小さな光の粒が現れてきた。
『うふふ、そうよ。みんな勘違いしているけれど、私はすごくお転婆だったんだから』
「ソマリと一緒なら」
『レイナと一緒なら』
どこまでも行けそうな気がしてきた。
無理やり爺に起こしてもらい、急いで給仕の人たちに手伝ってもらいながら婚儀の準備を進めていく。
「まったく聖女様、今日がどれだけ大事な日なのかあなたはご存じないのですか⁉」
語尾になるにつれて口調が険しくなっていく。
相当イライラしているようだった。
私は何も考えることができずにおり、ただ憂鬱の中を漂うだけの抜け殻になっているような気がしてならない。
昨日のソマリだって、実は夢なのって言われると信じてしまう。
「私が私でいられる最後のとき……」
今日の昼には第二王子との結婚式が予定されていた。
まだ顔も知らない存在に私は嫌とも楽しみともとれない、複雑な感情しかもてないでいる。
「まったく、奥様が知ったら大変なことになりますぞ」
私が聖女の資格があると知って、この家に買われてしまう。
だから、本当の父と母の姿を私は覚えていない。
だからと言って、今の義母の姿を覚えているのかと問われると、それは否である。
「お義母さま……」
一度だけ、この家の庭で遊んでいるときにチラッと横顔を見たことはあるものの、ハッキリと姿を見たことはない。
だって、私は元居た世界でいうならビジネスの道具でしかなく、自分の家が甘い蜜を吸う事以外考えていないのかもしれない。
そのとき、窓の外に数羽の鳥が真っ青な空へと羽ばたいていく姿が目に入ってくる。
「鳥は羽ばたくもの」
「そうです。鳥は空を飛び、平民は税を貢ぎ聖女様は聖女として生きるべきなのです」
爺が私の小言に対し言ってきた。
それはつまり、こちらに自由など無いと言っているようなもの。
「わかっております。私は聖女として仕事をまっとうします」
「仕事? えぇ、存分に励まれてくださいませ、どうか心より願っております」
嫌味な感じのいい方に不快感を覚えてしまう。
そんな私の心の内とは関係なく、準備は進められ純白のドレスとベールを身に着けると、そのまま馬車でお城まで送られていく。
もう、自分の歩きたい道は歩けないのかもしれない……だったらせめて内側からでも世の中が良くなれれば、ソマリーー今私にできる精一杯をやってみるわね。
お城に到着すると、爺はさっさと馬車に乗り来た道を戻っていく。
取り残された私に兵士が周りをがっちりと囲み、淡々と歩かされた。
そして、ある部屋に通されるとムワっと強烈な香水の香りにせき込みそうになる。
「おぉ、来たか」
ボソッと気だるそうな声に視線を向けると、そこには二人の美女に囲まれ朝からお酒を飲んでいるのか真っ赤な顔の男性がいる。
歳は今の私とあまり変わりないように見えるが、おそらく年上だろう。
「こりゃ、随分と貧相な女だな……それに礼儀知らずときたか」
周りの兵士たちがザワっとしだし、小声で私に伝えてくる。
「あの方が聖女様の旦那様となられる……」
「え?」
私は慌てて前に出て、膝をつくと頭を下げてこう述べた。
「大変失礼いたしました。私はレイナ・アストレアと申します。この度は」
「あぁ、うん、もういい」
急に言葉を止められ、さらに面倒のような感じで周りの美女たちを遠ざけると、私の近くへとくる。
「二年だ、二年で俺の子を産め。それ以上は待たない」
唖然とした。 何をこの人は言っているのだろうか?
「そ、それはどういった意味でしょうか?」
ちらっと視線だけ上にあげると、単発の黒髪できりっとした目をしていおり、とても整った顔の人物だ。
だた、酔っているのか瞳は常に動いており、それは私の姿を捉えていない。
「なに? バカなのか? 俺は誰にも縛られたくない、国のなんちゃらでお前のような平民を抱くなんて考えられないんだよ。だから期限は二年だ、それ以上はお前を抱く理由がない」
嫌悪感に包まれていく。
こ、これが初代聖女として活動した彼女が言っていた現実なの? 私も愛のない結婚なんて嫌だ。
だけど、だけど! そうでもしないとこの世界を少しでも良くはできない。
「し、しかし、恐れながら申し上げますと、私にも聖女としての務めがあり、より良い世の中にすべく努力を……」
その瞬間、ベールを無理やりはがされると私の髪の毛を掴み、無理やり顔をあげさせられた。
「い、痛い!」
「おいおいおいおい! お前、何か勘違いしてないか? 聖女? ヘッ! あんなお飾りに仕事なんざねぇよ。次の聖女候補が現れるまでお前はただいるだけだ、いい生活だろ? 何もせず、俺に抱かれているだけで何不自由のない生活が二年は約束されているんだ。平民のお前にはもったいない生活がな‼ 聖女はお飾りなんだよ? わかるか? 役目ってのは唯一あるなら、その名を借りて俺たちは貧乏人たちから金を貰う。そのための道具となれ」
そう言って、バンっと乱暴に手を離された。
後ろで見守っている兵士たちはガクガクと震えて何もできないでいる。
「……いる」
「あ? なんだ? 文句でもあるのか?」
今度は蹴りを入れようとしてくるのを無意識に私の腕がとめた。
「は? なんだ? やろうってのかよ?」
私の中で何かが囁く、それはずっと眠っていた心を強くたたき始めた。
『レイナ、お願い。これが現実なの……あなたならできるわ』
わからない、何ができるって言うの? でも先日の市場でみた人の顔が脳裏に浮かぶ、こんな世界が許されるなんて、それは聖女という姿を使いさらに貪ろうとしている。そんなこと私にはできない!
ただ敷かれたレールの上を走るために生まれたんじゃない、ソマリお願い力を貸してちょうだい、あなたが私にこの世界を変えられ可能性があるっていうのなら、少しでも光ある方向へと変えてみたい。
『ありがとう、大丈夫よ。私がずっと傍にいるから安心して』
「おい、なんとか言えよ! どうせ顔は隠れるんだ、少し傷ついても誰も気が付かねぇだろ」
ぐっと、掴まれていないもう片方の足で私を蹴ろうとするが、ズッと力を入れて足を引き込むとバランスを崩してお尻から床に倒れてしまう。
なんてみっともない、慌てた兵士たちが駆け寄ろうとしていた。
私は立ち上がり、ギリっと相手を見下ろして告げる。
「腐っているって言ったのよ! その反吐がでる息で私に話しけないでください、この場をもって婚約は破棄とさせていただきます! そして、今をもって聖女としての資格も捨てます」
首に飾られた白銀のネックレス、これは私を聖女として縛り付けている物、こんなものは必要ない。
ゆっくりと外し、目の前の男に向かって投げ捨てた。
「ぶっ! こ、このクソがぁ‼ 殺せ、殺すんだ!」
「し、しかし、相手は……」
「うるせぇ、俺が殺せって言ってるんだ殺せよ! できないなら、俺がやる!」
椅子に戻り、宝石に彩られた剣をもって私に向かってくる。
兵士たちは何をしてよいのか理解できないでいるスキを狙い、腰から剣を奪った。
「な! 正気なのか⁉ おやめください!」
不思議、私は剣なんて一度も扱ったことなんてない、だけど体が勝手動いてくれる。
スッと構えると呼吸を整えていく、あぁソマリあなたって随分と活発だったのね。
彼女の気配が私を包み込み、小さな光の粒が現れてきた。
『うふふ、そうよ。みんな勘違いしているけれど、私はすごくお転婆だったんだから』
「ソマリと一緒なら」
『レイナと一緒なら』
どこまでも行けそうな気がしてきた。