『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
***
静かな庭にずらりと並ぶ生首を睨みながらお酒を飲む影か二つあった。
その狂気を含んだ行いに対し、誰も咎める人などいない……この世界では彼がルールであり秩序である。
「ふむ、たまにはあやつらも役にたつではないか」
「こりゃ絶景だな」
ケラケラと笑う子息を横目に、自分もお酒をひと口含みゆっくりと飲み込んでいく。
イフリートの泉を占拠されたことにより、本格的に砂漠の民との戦争に入った教王国。おそらく設立以来大きな戦争を経験してこなかったのでほぼ初めての出来事であった。
「スラムのごく潰しども、もう少しはもつかと思ったがまぁよい。これで街も平和になっただろう」
税を納めることもできない、スラムを中心に活動しているゴロツキや刑を背負っている人を中心とした軍を敵に差し向け、あわよくば少しでも被害をと思ったが、報告を聞いた限りでは殆ど削れていないのは把握している。
だが、無駄に経費のかかる囚人や治安を悪化させ犯罪の温床になっている人を一気に消せたのは大きな成果だと思っていた。
「ヤツらを倒せたら、罪は無くなり城などへ登用するとなど言えば群がってくる虫どもめ……役立たずは消えてよい」
そして、何の成果もなく逃げ帰ってきた部隊の長たちの首を並べている。
これで、かなりの内側の邪魔な存在を消すことができたと喜んでいた。
「しかしオヤジ、こんな雑魚ばっかり使ってもあいつらは倒せないってのは厄介だな」
「うむ、正規兵も一度は退いている現状を考えるならば、短期的に駆逐すると我らの懐がかなり痛む可能性が高い。ジワジワと体力を削っていく必要があるであろう。なぁに、泉からは動けん」
いかに、今までさんざん無駄な金をつぎ込んでいた不必要な泉から解放されたと言っても、元々は彼らの領地。
それを占領されたのだから、気持ちが良いわけではない。
「愚か者め……見ておれ、教王国がこの世界の秩序であることをその体に教えてやらねば」
手に持っていた杯を地面に落とすと、カーンっと蹴り上げた。
それは、まっすぐに目の前の首に向かっていき、ぼふっと鈍い音をたてて地面に落ちる。
それを見てゲラゲラと笑う息子を冷えた視線で見つめると、小さくため息をついて次の作戦を考えるために中へと戻っていく。
***
「しかし、凄いなその剣」
ラバルナが陣中で休んでいると話しかけてくる。
「凄い切れ味よ。それに一切刃こぼれもしないし」
「確かに、イルルヤンカシュの牙から造られた剣にイフリートの炎ってどこの世界の話だよ」
目の前で実際に行われている非現実的な現象にどう対処してよいのか困っていた。
私がイフリートの洞窟から出てきて、目覚めるとすぐに会議が行われ当初の目的であった泉の解放は達成された。
だが、魔人が封印されていることやイフリートの存在については私が説明すると、全員が信じられないような表情に変わる。
「でも、全て本当のことなのだから」
指先にぽっと小さな火が浮かび上がる。
この程度ならいくらでもできてしまう、ただし、無用には使わないとイフリートから言われているのですぐに消した。
『人間はすぐに力に溺れてしまう。我らの力をもっても自制でき世のためになんてヒトはいないと思っていたが』
『そうよ、レイナはすごく良い子なの! だから、イフリート出ていってちょうだい』
『はぁ⁉ おいじゃじゃ馬、良い子の流れからまったく予想できない言葉がでてきたが、あん? やんのか?』
またすぐ私の中で喧嘩を始める。
前まで私から話しかけないかぎり、ソマリは話さなかったが今ではちょくちょく会話を楽しんでいた。
ずっと一人でこの世界を彷徨っていたのだ、人とは違うけれど同居人ができてうれしいのかもしれない。
「それで、今後についてだが」
ラバルナが話を切り替えていく。
ゼイニさんは引き続き、物流とイルルヤンカシュの加工および重装荷駄隊の編成と大忙しである。
ファルスさんも遊撃隊として、常に戦闘準備を怠るわけにはいかないので、どこかで負担を軽減できないかと思っていた。
「おそらく教王国のヤツら、今回はかなり手を抜いてきたと思われる」
「そうね、弱すぎるかしら……装備は一見正規軍のだけど、かなり整備されていない品も多くあったから急造の傭兵ってところかしら?」
「傭兵ならもう少し戦えるが、まるで素人だった。おそらく、スラムや囚人たちを兵として利用した可能性がある。証拠に囚人に施される刺青がかなり見つかってな」
そんな、私たちとの戦いに対し相手は戦闘訓練を受けていない人を戦場に送り出してきたというの? 横目で確認すると、所々錆びた鎧に槍先が折れている武器を見ていると、少し複雑な気持ちになった。
「おそらく、今回限りだとは思う……今後は正規兵との戦いが続くだろう」
この砂漠の世界は、どこまでも貧しくそして腐っている。
何が正義で何が正しいのかも薄れていくほど前は見えない。
「そうね、でもやるって決めたのでしょ?」
「もちろん、俺たちは止まるわけにはいかない。この命が燃え尽きるまで進むと誓ったのだから」
静かな庭にずらりと並ぶ生首を睨みながらお酒を飲む影か二つあった。
その狂気を含んだ行いに対し、誰も咎める人などいない……この世界では彼がルールであり秩序である。
「ふむ、たまにはあやつらも役にたつではないか」
「こりゃ絶景だな」
ケラケラと笑う子息を横目に、自分もお酒をひと口含みゆっくりと飲み込んでいく。
イフリートの泉を占拠されたことにより、本格的に砂漠の民との戦争に入った教王国。おそらく設立以来大きな戦争を経験してこなかったのでほぼ初めての出来事であった。
「スラムのごく潰しども、もう少しはもつかと思ったがまぁよい。これで街も平和になっただろう」
税を納めることもできない、スラムを中心に活動しているゴロツキや刑を背負っている人を中心とした軍を敵に差し向け、あわよくば少しでも被害をと思ったが、報告を聞いた限りでは殆ど削れていないのは把握している。
だが、無駄に経費のかかる囚人や治安を悪化させ犯罪の温床になっている人を一気に消せたのは大きな成果だと思っていた。
「ヤツらを倒せたら、罪は無くなり城などへ登用するとなど言えば群がってくる虫どもめ……役立たずは消えてよい」
そして、何の成果もなく逃げ帰ってきた部隊の長たちの首を並べている。
これで、かなりの内側の邪魔な存在を消すことができたと喜んでいた。
「しかしオヤジ、こんな雑魚ばっかり使ってもあいつらは倒せないってのは厄介だな」
「うむ、正規兵も一度は退いている現状を考えるならば、短期的に駆逐すると我らの懐がかなり痛む可能性が高い。ジワジワと体力を削っていく必要があるであろう。なぁに、泉からは動けん」
いかに、今までさんざん無駄な金をつぎ込んでいた不必要な泉から解放されたと言っても、元々は彼らの領地。
それを占領されたのだから、気持ちが良いわけではない。
「愚か者め……見ておれ、教王国がこの世界の秩序であることをその体に教えてやらねば」
手に持っていた杯を地面に落とすと、カーンっと蹴り上げた。
それは、まっすぐに目の前の首に向かっていき、ぼふっと鈍い音をたてて地面に落ちる。
それを見てゲラゲラと笑う息子を冷えた視線で見つめると、小さくため息をついて次の作戦を考えるために中へと戻っていく。
***
「しかし、凄いなその剣」
ラバルナが陣中で休んでいると話しかけてくる。
「凄い切れ味よ。それに一切刃こぼれもしないし」
「確かに、イルルヤンカシュの牙から造られた剣にイフリートの炎ってどこの世界の話だよ」
目の前で実際に行われている非現実的な現象にどう対処してよいのか困っていた。
私がイフリートの洞窟から出てきて、目覚めるとすぐに会議が行われ当初の目的であった泉の解放は達成された。
だが、魔人が封印されていることやイフリートの存在については私が説明すると、全員が信じられないような表情に変わる。
「でも、全て本当のことなのだから」
指先にぽっと小さな火が浮かび上がる。
この程度ならいくらでもできてしまう、ただし、無用には使わないとイフリートから言われているのですぐに消した。
『人間はすぐに力に溺れてしまう。我らの力をもっても自制でき世のためになんてヒトはいないと思っていたが』
『そうよ、レイナはすごく良い子なの! だから、イフリート出ていってちょうだい』
『はぁ⁉ おいじゃじゃ馬、良い子の流れからまったく予想できない言葉がでてきたが、あん? やんのか?』
またすぐ私の中で喧嘩を始める。
前まで私から話しかけないかぎり、ソマリは話さなかったが今ではちょくちょく会話を楽しんでいた。
ずっと一人でこの世界を彷徨っていたのだ、人とは違うけれど同居人ができてうれしいのかもしれない。
「それで、今後についてだが」
ラバルナが話を切り替えていく。
ゼイニさんは引き続き、物流とイルルヤンカシュの加工および重装荷駄隊の編成と大忙しである。
ファルスさんも遊撃隊として、常に戦闘準備を怠るわけにはいかないので、どこかで負担を軽減できないかと思っていた。
「おそらく教王国のヤツら、今回はかなり手を抜いてきたと思われる」
「そうね、弱すぎるかしら……装備は一見正規軍のだけど、かなり整備されていない品も多くあったから急造の傭兵ってところかしら?」
「傭兵ならもう少し戦えるが、まるで素人だった。おそらく、スラムや囚人たちを兵として利用した可能性がある。証拠に囚人に施される刺青がかなり見つかってな」
そんな、私たちとの戦いに対し相手は戦闘訓練を受けていない人を戦場に送り出してきたというの? 横目で確認すると、所々錆びた鎧に槍先が折れている武器を見ていると、少し複雑な気持ちになった。
「おそらく、今回限りだとは思う……今後は正規兵との戦いが続くだろう」
この砂漠の世界は、どこまでも貧しくそして腐っている。
何が正義で何が正しいのかも薄れていくほど前は見えない。
「そうね、でもやるって決めたのでしょ?」
「もちろん、俺たちは止まるわけにはいかない。この命が燃え尽きるまで進むと誓ったのだから」