『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
 不吉な名前を聞いた。
 私もその名を以前いた世界で聞いたことがあるが、詳しい内容までは知らない。
 事情に詳しそうなイフリートに聞こうとしても黙っているばかりであった。

「お? レイナ様、ここにおられましたか」

 ゼイニさんの部下が私を探し回っていたようで「ごめんなさい」と告げると、ラバルナたちが待つ場所に案内された。
 偵察から戻ってきたばかりのファルスさんに、ゼイニさん、それに中央にはラバルナをぐるっと囲うように各村々の長が並んでいる。
 狭い空間に蒸し暑さが追加され、なんとも居心地の悪い感じになっていた。

「お? 来たか、座ってくれ」

 私は全員に頭を下げて挨拶をすると、一番後ろの席に座る。
 隣にゼイニさんも来て、笑顔で挨拶をしてくれた。

「よう」

「お疲れ様です」

 ざわざわと落ち着きないが、ラバルナの咳払い一つで静かになる。
 
「すまない、忙しいところ集まってくれて」

 淡々と静かな面持ちで会話を始めていく。
 最初は労いの言葉に感謝を添えて、教王国との戦争に関して……現状の改善点やこれからの展望などこと細かく伝えてくれた。
 そして、いよいよ彼が本当に伝えたかったことを話し始めた。

「ここまで大きくなれたのは、偏に全員の協力のおかげであります。改めて感謝を申し上げます。そこで、考えたのです。ここまで規模が大きくなれば既に村以上、いや、教王国王都にも引けを取らないでしょう」

 それは言い過ぎな気もするけれど、全員の動悸が早くなっているのが感じられる。
 それだけ、何かを期待しているのかもしれない。

「だから、我々は新たな国を創る! この腐敗した世界を解放する。そう言った意味で新国【タフリール】をこの場で設立することを宣言する‼」

 おぉ―‼ と、感嘆の声があがる。
 拍手する人までいて、いよいよ盛り上がってきた。

「皆様にお願いがあります。この場を借りて申し訳ございませんが……」

 彼にしては珍しく歯切れの悪い言い回しに、ゼイニさんが呆れた表情で立ち上がると大声で叫ぶ。

「俺は期待しているぞ! よ! 新国王‼ ラバルナ万歳‼」

 彼の一言を皮切りに、次第に拍手と声が広がっていく。
 
「ラバルナ様万歳‼ 新国王誕生おめでとう‼」

 少し呆けた顔のまま、ふっと小さく笑うと表情を引き締めて立ち上がる。
 腰から剣を抜いて、高らかに宣言した。

「この地から世界の開放を始める。我らはタフリールの民、自由を‼」

「「自由を‼」」

 蒸し暑かった部屋が熱気へと変わる。
 それは、この世界にとっては小さな一歩かもしれないが、私たちにとってはとても大きな一歩であった。
 大丈夫、不気味な存在もウロウロしているが当面の目的は教王国との戦争がメインになるだろう。
 
「ゼイニさん、さすがね」

「そうか? ま、あんな姿の親友は見ていてイライラするしな……あいつにはずっと真っすぐをみていてもらいたくて」

 真っすぐ、脇や後ろは私たちがいる。
 だけど、正しい道を歩まなければならない、自らを正し正義を信じて行動する必要があった。

「大丈夫よね」

 いつの間にか、酒まで用意され宴が始まろうとしている。
 私はフッと笑いを残して外へと出た。
 まだ陽は高く、ジリジリと空気を焦がしており、靴の底からでも熱を感じられた。

「いよいよね」

 いったいこの世界に、私たちの道を阻もうとする敵が存在するのかわからない。
 グッと力を入れて剣を抜くと、ギラっとその刀身が私を照らした。
 
「負けない、負けられないんだから」
『レイナ……安心して、あなたには私たちもついているから』
『嬢ちゃん、任せな仮にも世界を救った英雄と初代聖女という名のじゃじゃ馬も一緒なんだ』

 いつも一言余計だと思う、案の定ソマリが怒り出し一気に中が騒がしくなる。
 先ほどまで沈黙していたイフリートも声を出してくれた。

「うん、心配ないわね」

 このどこまでも砂漠と岩の世界、色と言えば夕暮れに焼けた砂が朱色に照らされたときぐらいだろうか?
 歩くたびに粒子が音まで吸収しながら散っていく、まるで無の世界だが私たちは暮らしており生きていた。
 
 背後から何か音が聞こえてくる。
 振り向くとラバルナの軍旗が風に揺られており、その隣には私の軍旗もあった。

 それを背に、もう一度剣に誓いをたてる。

「迷わない、私たちの歩みべき道を照らしたまえ、その月の明りが雲に隠されることのないように努力いたします」

 そう、私は違う世界から来た異国の存在。 つい先日まで籠の中の鳥状態から一気に開放され砂漠を統べる人の元世界を救おうと行動を開始した。
 
「さて、止まっていられないわね、いくわよ‼」

 背中に風が当たる。
 中から聞こえてくる喧騒から耳を守るために私は歩き始めた。
 目指すのはただ一つ、世界を救うこと……。
 
 
 
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