『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
 剣を握り、相手を見ると怒りと酔いでガムシャラに突っ込んでくるだけで、私の体はすっと避けると剣を持っている手を柄頭で叩くとあっけなく、カランカランと床に落ちていった。

「へ?」

 何が起きたのか理解できないでおり、呆然としている。
 少し痺れたのか震える手を見て、周りを見ると兵士たちも同じ表情をしていた。

「こ! こいつ、俺に向かって武器を使いやがった‼ し、死刑だ、殺せ! つ、捕まえるんだ」

 自分から手を出しておいて何を言うのか、まったく呆れてしまう。
 しかし、流石の兵士たち主が負けてようやく状況をつかみだしたのか、武器を構えて私を囲もうとしてくる。

「自分よりも弱い人しか狙えない人が、この国の上? 笑わせないで、常に民を想い行動していくのが上に立つ人物の責務でなくて?」

「うるせぇ! お前なんかに何がわかるっていうんだ⁉ 兄貴みたいなこと言いやがって、こら! 何しているんだ捕まえて俺の前に連れてこい、俺様自らその首を刎ねてやる。聖女は今いなくなった! 追放だ、貴様はこの国の人間じゃねぇ‼ 代わりはいくらでもいるんだからよ‼」

「あらそう、お兄様はわりとまともな人のようね、でも残念……私たち(・・)はここで終わることはできないのよ」

 二人が向かってくる、上と横から手加減した剣が胸をかすめ綺麗なドレスがスッと斬れていく。
 それを見た彼は上機嫌になり、続くように指示していく。

『ここで争うと面倒よ。逃げるのが得策かも』

「そうね、それじゃそうしましょう‼」

 ここの騒ぎを聞きつけて、廊下から人の気配がしてくる。
 簡単に包囲されてしまうので、ここで闘うのはダメだ。

「逃がすな! 捕まえろ!」

「逃げる? それは違います」

 ガチンッ! 相手の剣を弾き飛ばし一瞬怯んだスキに腹部に蹴りを入れて倒れさせた。

「必ず私は戻ってきます。その時がこの国の終わりで始まりなのですから!」

 後ろにまわり込もうとした兵士に、自分が持っている剣を投げて驚かすと、その脇を抜けていく。
 真っすぐに出口を目指して走った。

「もう! 走りにくい」

 ビリっとドレスを破りドアを開けていく、目の前にはお城の給仕と思われる人たちが集まっておりオドオドした感じで私を見ていた。

「怪我したくなかったら! そこをどいてください」

 さっと避ける人だかり、できた道を通って私は再度走り出した。

「待て! 何やってやがる、そいつは反逆者だ捕まえろぉ‼」

 ザワザワと混乱が広がっていき、鎧を身に着けた兵士たちの騒がしい足音が聞こえてくる。
 まずいわね、このままだとどこかのタイミングで捕まってしまうかもしれない。
 武器を捨てて正解だった、いくらソマリの力で剣技が上手くとも、基本となる体力は私のままなのだから身軽なほうが逃げやすかった。

「こっちだ! 先回りしろ」
 
 ドタドタと異質な気配に囲まれているのが手に取るようにわかる。
 これもソマリの力なの? だとすれば、私はこのままいくと確実に包囲されてしまう。

「どうしよう……」

 彼女に助けを求めるように呟くが、返事は返ってこない。
 肝心な時には無視って酷くない? 先ほどまで大丈夫だった足が段々と重くなっていく。
 ずっと外に出られなかったのだ、体力的にかなり厳しい状況だった。

「はぁはぁ、どうしよう」

 どこか隠れられる場所は? そう思って探すもどこも鍵が掛かっていたり、人の気配がしてダメだ。
 ドンドンと近づいてくる足音に、恐怖がつのっていく。

「レイナこっちよ!」

「え⁉」

 逃げている途中に誰かに呼び止められる。
 姿を確認してみると、煌びやかなドレスを見に纏った四十代ほどの女性が私を手招きしていた。
 これは罠? でもなんで名前を? 迷っているうちに兵士たちの声が近づいてくる。

「クッ!」

 罠の可能性が非常に高い、でも、今はこれしか道がなかった。

「ほら急いで」

 開けられた部屋に入ると、ドレスとは違い質素な家具で飾られた空間だった。
 どこか懐かしさを感じる雰囲気に荒げた息が整いだしていく。

「何をしているの、ここに隠れて」

 案内されたのは、私がちょうどすっぽり入りそうなクローゼットで不安になりながらも入ると彼女はそっとドアを閉める。
 すると間もなく男性の声が聞こえてきた。

「すみません、突然失礼します。こちらに白いドレスを着た女性が来ませんでしたか⁉」

 ドクンッ――。 もしここで教えられたら逃げ場なんてない。
 まだ勢いのある呼吸を手で抑えて音を消すが、全てはあの女性にかかっていた。

「女? 見ていないわね、それよりどうかしたの? 騒がしいけれど」

「何も心配することはございません、来ておりませんか、それだけ確認したかったので失礼いたします」

 乱暴にバタンッ! っと扉が閉じられ、しばらくすると兵士たちの気配が遠のいていく。
 すると、クローゼットがゆっくりと開き女性が声をかけてきた。

「こっちよ、出ていらっしゃい」

「あ、ありがとうございます。でも……」

 なんで? と聞こうとすると、人差し指を口元へ持っていき静かにしなさいと言われた。
 彼女は再度扉の前に行き、耳を傾け誰もいないことを確認すると、部屋の奥にある机を動かしカーペットを剥がしていく。
 そして、床に手をやりコンコンと叩き音が違う場所を探り当て、グッと力を入れと床がパカっと開いた。

 
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