『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
 思わず【絶句】してしまう。 こ、この人は何を言っているのだろうか? 本当のことだとするも、私の理解が追いつかない。
 私が固まっている間に、先ほどの男性に指示を出して私たちの周りをぐるりと囲みながら進み始める。
 ジャマルに乗っている人たちは全員軽い鎧を身に着け、軽い武器を持っていた。

「ほ、本当に王子なの?」

「ん? 嘘いってどうする。 ちなみに、さっきの男は俺が王都から引き抜いた人物で元騎馬隊総隊長だったんだぜ」

 自慢げに言うも、全然信じられない。
 だって、なぜ? って誰もが思うじゃない、王都で暮らしているはずの王子がなんでこんなところで? しかも自国の兵隊に対し喧嘩を売るようなかたちをとっているのだろう?

 とにかく疑問が尽きない、しかし、今はただ彼に任せていくしかない。
 ぐるっと囲まれたジャマル隊に私たちは守られながら目的地である場所へと向かっていく。
 しばらくすると、陽が傾きかける頃になりようやく到着した。

「お、着いたか」

 私も前を向くと、そこにはオアシスがあり水辺の周りを囲むようにいくともの家が立ち並び、火の灯りが見え人々の営みが感じられた。
 村に到着し、ジャマル隊は後ろへと移動し私たちは入り口で村人たちの歓迎を受けながら降りることにする。

「よっと、ほら」

 先に降りた自称王子が手を差し出してくれた。
 思ったよりも高さのあるジャマル、少しためらったが手を握り降りると、ガクッと腰が落ちてしまう。
 長く慣れない乗り物で移動したので、腰から力が抜けていた。

「ひゃっ!」

 倒れそうになるのを、受け止めてくれた人がいる。
 
「おっと、大丈夫ですか聖女さん」

 ニヤニヤと眼が笑っており、私はムッとした表情になると震える足腰に力を入れて手を振りほどいた。

「ありがとうございます。でも、私は聖女でも元婚約者でもありません、レイナ・アストレアっていう名前があるんです」

「あぁ、それはすまない、それじゃぁレイナ疲れているところ悪いがこっちに来てくれ」

 いきなり呼び捨て、いちいちストレスになる相手であるが、私を助けてくれたことには変わりない。
 ぐっと堪えて彼の後についていくと、村の中心部で比較的大きめの家に通された。

「すまない、水ぐらいしか出せないが腰を下ろしてくれ」

 粗末な木の床に乾燥した草を編まれてできた座布団のようなモノに座ると、前を向いて水を飲み込んだ。

「美味しい」

 今まで飲んできた水で一番美味しいかもしれない。
 この世界の水はとにかくぬるいという印象しかなく、こんな冷えていて美味しい水を飲んだことがなかった。

「そうだろ? ここは絶えず水がわき出してくる貴重な水源の一つなんだ、そう言った場所にはこうして自然と人が集まり村ができる。でも、それだけ貴重な水を狙う奴らは少なくないってこと」

 それであのジャマル隊が結成されたのだろうか? それにしては規模が大きすぎるような気がしないわけでもない。
 
「それに、ここまで大きくなると王都のクソどもも見逃してくれない、税だの言って無理やり取り立てはじめたが、俺が追い払った」

 淡々ととんでもないことを言い出してきたが、私はゆっくりと深呼吸をして話を聞く態勢を整えた。 
 それを確認し、彼もコホンと咳を一つすると顔を覆っていた布を取った。

「え?」

「ん? 何か俺の顔が変か?」

 いや、眼の感じからするともしかしたらと思っていたが、想像以上に顔が整っている。
 キリっとした顎のラインに、ほどよく日に焼けた肌やキレのある眼は特に魅力をもっていた。
 髪もあのク……弟のよう黒髪ではなく少し栗毛のような感じがして、猫毛なのだろうか? 少し癖がついており、ふわふわと軽そうな髪質に思えた。

「い、いいえ、それでイスファ王子は私に何かお話があるのでは?」

 名前を言うと、あからさまに不機嫌になる彼は本題に入る前にこう言ってきた。

「すまない、その名前で呼んでもらいたくない、俺は既に国を捨てたようなもんでな、できればラバルナか皆はなぜかルナって呼ぶな、どちらかで頼む」

 いきなり呼び捨ても抵抗があるが、考えてみれば相手も私を呼び捨てにしたので、これでチャラって思うなら悪くないかもしれない。

「そ、それじゃラバルナ」

 な、なんだか恥ずかしい。 この世界に来てから歳の近い男性とロクに会話をしたことがあまりなかった。
 まさか、あんな人が私の婚約者だったなんて、思いっきり蹴り倒しておいても良かったかもしれない。
 
「おう、それだそれ」

 満足そうに頷くと、今度こそ本当に本題に入って行く。

「さっきも言ったが、俺はこの国に対しかなり不満がある。内側から変えようと思い努力したが、腐り過ぎていてどうにも上手くいかなかった。それに味方も殆どいなかったしな」

 彼は民優先の政治をすべきだと唱えたが、それは却下され挙句の果てに王位継承権を弟に現国王は譲渡してしまう。
 そこまでは我慢できたが、お忍びで街へ出たりするたびに、苦しむ声に耐えられなかったという。

「これが今の現状で、良くなるなんて絶対にあり得ない。国は滅び混沌とした秩序無い世界に戻ってしまう。そうなれば、また多くの人々が死ぬ。それだけは避けなければならない、だから俺は信頼できる人物たちだけでこの村までやってきて外から世界を変えようと努力している」

 
 
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