俺様な幼なじみは24年前の約束を忘れない
凌ちゃんと距離を置き、穏やかな日々を送っていたはずなのに、働き始めてからは、また不穏な日々が始まった。
まさか、凌ちゃんが彩西医科大学の附属病院に勤務しているとは思いもしなかったのだ。
大学を卒業した後、二人が家に戻ってきたのは知っていた。
医師になるにあたって、まずは生活を整えて仕事に励めという、院長先生の方針らしい。
晃ちゃんは柳田総合病院の跡取りとして、病院全体のことを学びながら、今は呼吸器内科で働いている。
だから、当然、凌ちゃんも柳田総合病院で医師をしていると思い込んでいた。
私は、勤務しだした図書館で、
「おぅ!莉子!久しぶりだな。」
と声をかけられ、気絶しそうになったのだ。
家に帰って、母に、
「り、凌ちゃんが職場に出た…」と震えながら言うと、
「当たり前でしょ。凌介君は彩西医科大を卒業して、そのまま附属病院で研修医として働いてるんだから。
まさか、あんた知らなかったの?」
と、呆れたように言われたのだ。
知らなーいっ!誰が知るもんかっ!
知ってたら絶対働いてないっ!
心の中で叫んだが、今さらどうすることもできない。
今日は会いませんように…と毎日仏壇に手を合わせてから、職場に向かう。
しかし、ご先祖様は意地悪で、私の願いをちっとも叶えてくれなかった。
凌ちゃんが所属する心臓外科は、やたらと書物の搬入が多い。
私がデリ番の時には、必ずと言っていいほど、心臓外科に届け物がある。
ガラガラとデリ蔵を押して行くと、司書が来たことが皆にわかる。
すると凌ちゃんは姿を現し、
「おぅ!莉子。」と絡んでくるのだ。
でも、さすがに毎日のように会っていると、前ほど苦手意識はなくなってくる。
慣れって恐ろしい。
相変わらずの俺様で、偉そうではあるが、昔のように、バカまぬけと言って意地悪をすることもなく、不機嫌に怒鳴りつけることもない。
「なかよし」まではいかないが、昨日のように突然家にいても、どこかに避難する程ではなくなった。
誘われると、一緒にランチを食べに行って、ついでに映画なんかも見て、ドライブに行って…なんてこともできるようになっていた。
慣れすぎ?
私はどうも人に流されやすいらしい…。
元来あまり深く物事を考えない性格なので、恐くないならまぁいいかと、流されるままの日々を送っている。
だが、それを絶対に周りに知られたくはない。
私たちは、いわゆる幼なじみというやつだが、それを知った人には、絶対にそれ以上の関係があるんじゃないかと勘ぐられる。
正統派イケメンの晃ちゃんとは少し系統が違うが、凌ちゃんも女子に大人気なのだ。