俺様な幼なじみは24年前の約束を忘れない
会場が少しライトダウンした。
式典が始まるらしい。
まずはスライドが上映されて、院長先生の曾祖父である、初代院長の紹介が始まる。
地域に根付いた医療を目指す、柳田総合病院の経歴が紹介されていき、現院長先生の紹介へと移る。
私たちには甘々の優しい院長先生は、立派な医師だ。
こんな立派な方とお知り合いになれたことを心から嬉しく思う。
スライドの後は、院長先生がご挨拶をされ、後継者として晃ちゃんが紹介される。
その堂々とした姿に、香子はうっとりと見とれていた。
乾杯の音頭のあと、しばしご歓談ということになった。
柳田家の方々はこれから挨拶回りをされる。
その後がいよいよ、婚約発表だ!
「香子、ちょっと何か食べる?緊張してるなら、甘いものだけでも口にすると、気分が軽くなるよ。」
「もう胸がいっぱいで。何も食べれそうにない。」
そう言われると、私だけが何かを食べるわけにはいかない。
香子を引き渡したら、少し食事をいただいて帰るとしよう。
「あら。こんなところにも来ているのね。」
どこかで聞いたセリフが聞こえた。
でも、私が知らない人だ。
香子を見ると顔が強張っている。
「いつまでも晃介さんにまとわりついて。鬱陶しい子ね。身の程を知りなさい。」
みんな、台本があるのかと思うくらいに、身の程を知れと言ってくる。
「私たちは、正式にご招待を受けて、ここに来ています。文句があるようなら、院長先生におっしゃって下さい。」
香子を庇うように、前に出て言った。本日二回目のセリフだ。
「何なの、あなた。生意気な子ね!
覚えていらっしゃい!」
ツンと顔を背けて、どこかのご令嬢は去って行った。
「覚えていらっしゃい」
なぜみんな覚えておいて欲しいんだろう。
セレブの考えていることは、全く理解できない。
香子を振り返って見ると、顔色が悪く、唇を噛んで項垂れている。
「化粧室に行こ。」
香子を連れて、会場を出た。
「あの人は誰?」と聞くと、
「晃ちゃんの高校の同級生。市会議員のお嬢さんなんだって。」
「病院によく来てて、晃ちゃんに差し入れとか持ってくるの。
私も何度か会ったことがあるんだけど、いつもあんな調子なの。」
香子は苦笑いした。