俺様な幼なじみは24年前の約束を忘れない

会場が少しライトダウンした。

式典が始まるらしい。

まずはスライドが上映されて、院長先生の曾祖父である、初代院長の紹介が始まる。
地域に根付いた医療を目指す、柳田総合病院の経歴が紹介されていき、現院長先生の紹介へと移る。

私たちには甘々の優しい院長先生は、立派な医師だ。

こんな立派な方とお知り合いになれたことを心から嬉しく思う。

スライドの後は、院長先生がご挨拶をされ、後継者として晃ちゃんが紹介される。

その堂々とした姿に、香子はうっとりと見とれていた。

乾杯の音頭のあと、しばしご歓談ということになった。

柳田家の方々はこれから挨拶回りをされる。

その後がいよいよ、婚約発表だ!

「香子、ちょっと何か食べる?緊張してるなら、甘いものだけでも口にすると、気分が軽くなるよ。」

「もう胸がいっぱいで。何も食べれそうにない。」

そう言われると、私だけが何かを食べるわけにはいかない。

香子を引き渡したら、少し食事をいただいて帰るとしよう。

「あら。こんなところにも来ているのね。」

どこかで聞いたセリフが聞こえた。

でも、私が知らない人だ。

香子を見ると顔が強張っている。

「いつまでも晃介さんにまとわりついて。鬱陶しい子ね。身の程を知りなさい。」

みんな、台本があるのかと思うくらいに、身の程を知れと言ってくる。

「私たちは、正式にご招待を受けて、ここに来ています。文句があるようなら、院長先生におっしゃって下さい。」

香子を庇うように、前に出て言った。本日二回目のセリフだ。

「何なの、あなた。生意気な子ね!
覚えていらっしゃい!」
ツンと顔を背けて、どこかのご令嬢は去って行った。

「覚えていらっしゃい」
なぜみんな覚えておいて欲しいんだろう。

セレブの考えていることは、全く理解できない。

香子を振り返って見ると、顔色が悪く、唇を噛んで項垂れている。

「化粧室に行こ。」
香子を連れて、会場を出た。

「あの人は誰?」と聞くと、

「晃ちゃんの高校の同級生。市会議員のお嬢さんなんだって。」

「病院によく来てて、晃ちゃんに差し入れとか持ってくるの。
私も何度か会ったことがあるんだけど、いつもあんな調子なの。」
香子は苦笑いした。


< 36 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop