俺様な幼なじみは24年前の約束を忘れない

階下のリビングに降りていくと、

「お前、すごい頭だな。」

私のボサボサの髪を見て、呆れ返る声が聞こえる。

柳田凌介(やなぎた りょうすけ)。27歳。
なぜか隣家の幼なじみがいた。

「凌ちゃん、どうしてこんなに朝早くからここにいるのよ。」

ごそごそと爪楊枝を出しながら尋ねた。

「今日は兄貴と香子がブライダルフェアに行くだろ?
行きだけでもいいから、送って欲しいって言われたんだよ。
料理の試食もあるから、アルコール飲むかもしれないって。」

香子は、凌ちゃんの兄 柳田晃介(やなぎた こうすけ)君との愛を実らせ、私たちが25歳になる10月に結婚することになっている。

香子は小さい頃から晃ちゃんひとすじ。それはそれは一途に想いを寄せ続けた。

長年想い続けた香子の恋が成就すると聞いた時は、私も本当に嬉しかった。

おめでたいことだとは思うけれど、香子たちのブライダルフェアに特に興味はない。

「ふーん」
どうでもよさげに返事をした。


父は早朝から釣りに出かけ、ダイニングテーブルに座るのは凌ちゃんだけ。

その凌ちゃんの前に腰を降ろし、ネックレスをテーブルに置くと、絡まった結び目を爪楊枝でトントンと叩き出した。

ネックレスが絡まった時は、結び目を爪楊枝でトントンと叩くと、結び目が解れる。

これぞ生活の知恵。

「お前、何やってんの?」

「香子が今日していく予定のネックレスが絡まったって言うから。」

トントンと叩きながら答えた。

「ふーん」
凌ちゃんもどうでもよさげに言った。

自分のことを棚上げしてるのは承知だが、興味がないなら聞かないで欲しい。

しばらくトントンしていたら意外と簡単にほどけた。猛烈に絡まってるときだと、30分は余裕にかかるのだ。

「香子!ほどけたよー。」

洗面所方向から、
「ありがとう!莉子大好き!」
と、何とも調子のよい返事が聞こえた。

香子は、しょっちゅう私に頼み事をしている。そのお礼はいつも、「ありがとう!莉子大好き!」だ。

お礼の品が返ってくることはない。


「莉子もご飯食べる?」

凌ちゃんの朝食をセットしながら、母が聞いてきた。

柳田兄弟は、小さい頃から、頻繁に我が家にご飯を食べに来る。

うちの母のことを「由紀子ちゃん」と呼び、私たちが生まれる前から出入りしていたらしい。

うちの母の味がお袋の味なんだそうだ。

由紀子ちゃんのご飯はサイコー!と言う凌ちゃんにおだてられ、母はご機嫌でご飯を食べさせている。


「いや。フルーツとヨーグルトだけでいいや。」

そう言って、ごそごそと自分の朝食の用意をする。
私はフルーツと野菜をこよなく愛する女子なのだ。

凌ちゃんは用意された、ご飯と味噌汁に玉子焼きという定番の朝食をガツガツと食べ始め、
「お前、相変わらずそんな物ばっかり食ってんの?」と言ってくる。

そして、食べる合間に、由紀子ちゃんの玉子焼きは相変わらずうまい!と、母の機嫌を取ることも忘れない。

私にはいつも威圧的なのに、こういう愛想だけはいいやつなのだ。

「別にいいでしょ。好きなんだから。」

再び凌ちゃんの前に腰を降ろし、用意したフルーツヨーグルトを食べ始めた。

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