エデンを目指して

総攻撃

 それから数回、おびき出し作戦は決行された。その度に銀嶺も出撃したが、いい加減慣れてきた頃だった。

「皆、今日はいよいよ巣へ総攻撃をかけるぞ。奴等の数も大分減ったからな」

グリンはそう言って地図を広げた。

「この岩場が奴等の巣だ。中に一匹、巨大な司令塔が居るらしいから、そいつをまず殺る。後は今までと同じさ」

「でも、その司令塔は仲間に守られているのではなくて?」

「そうだ。だが、今までの戦闘で、奴等は空を飛べない事は確かだ。空中から攻めれば何とかなるさ」

「分かったわ」


 一同は打ち合わせをして、巣へ向かった。銀嶺は武蔵を自分のスペースカイトに乗せる。広大な砂漠の上をカイトで飛び、岩場の上空に待機した。既に銀嶺達に気付いた大蛇が、岩場をうねっていた。黄色い岩場に黒い大蛇のうねりは、見るからに毒々しく、銀嶺は身震いした。群れの中心に一際大きな三つ頭の大蛇が切り立った岩に巻き付いている。

「よし、あれが司令塔だな。まずアイツを殺るぞ!」

グリンが叫んだ。

「最初に俺が雷撃する! 皆一旦離れてくれ!」

一同は岩場から離れた。タラが雷撃ハンマーを群れに食らわせる。群れの半分が消滅した。再び司令塔の周りに円形に並んだ一同は一斉に攻撃を仕掛けた。タラが大斧で三つ頭の一つの脳天に一撃を加える。頭はグウとうめき、割れた傷口から大量の血が吹き出した。グリンは火炎を真ん中の頭に浴びせる。頭は苦しそうにのたうち回った。銀嶺は最後の頭の首を斬りつけた。太いので一度では切り落とせない。斬りつけられてのけ反った頭は、再び首をもたげて、銀嶺に毒液を吐きかけた。もうその攻撃には慣れている。銀嶺はヒラリとかわすと、今度は目に剣を突き刺した。グワーと凄まじい咆哮を上げて、頭は滅茶苦茶に首を振る。第二小隊の一人が、銀の矢尻の矢をもう片方の目に放った。矢は命中し、頭がぐったりとなる。その隙に、銀嶺はカイトでスピードを付けて、思い切り首を切った。見事首は切り落とされて、後ろへ吹っ飛んだ。銀嶺は他の頭の方を見た。そちらもあらかた決着が着いた様である。銀嶺は大蛇の心臓目掛けて突進した。胸に剣を突き立てる。ブシュウッ、生々しい音がして、心臓が潰れた。司令塔の大蛇はあっという間に真っ黒な煙となり、霧散していった。


 残るは雑魚である。司令塔を失った大蛇達は途端に結束がなくなり、右へ左へと右往左往していた。武蔵が大蛇の周りを回って、群れを一ヶ所へ集める。そこへ皆で一斉攻撃をしかけた。火炎放射器を持つ者は特大の炎を浴びせ続け、斧を持つ者は首を切り落とし、弓矢を持つ者はひたすら矢を放つ。銀嶺は無我夢中で大蛇の群れを切り刻んだ。狭い岩場で敵味方入り乱れての混戦だった。戦闘服が返り血で真っ赤に染まる頃、戦闘は終わった。群れは全滅した。


「やったな!」

グリンが呆然とする銀嶺の肩を叩く。

「……終わったの?」

「ああ! 終わったさ。それにしても……酷いなりだな」

銀嶺は自分の姿を改めて眺めた。グリンの言う通り、全身返り血でドロドロだ。

「どうすれば良い訳?」

「心配ない。こうすれば良いのさ」

グリンは火炎を銀嶺に浴びせた。大蛇の血が煙となって消えていく。銀嶺は再び元の綺麗な状態に戻った。

「よう! 終わったな!」

バルタが声をかけてきた。

「ああ、今回は上手い事いったな」

「それにしても……銀嶺だったか? 小娘にしてはまあまあやったじゃないか。まだウォーカーの技は使えないようだが」

「ど、どうも……」

「そうだな、新人にしては良くやったさ」

「この後はどうするんだ?」

「一旦宇宙船へ戻って、中央司令部からの指示を待つさ」

「よーし! 野郎共! 引き上げだ!」

バルタはそう叫ぶと、豪快に笑いながらカイトに乗った。

「俺達も帰ろうぜ」

タラがグリンの肩を叩く。

「うん。銀嶺、行くぞ!」

三人はカイトに乗って帰路に着いた。


 夕方、一同は外に座って作戦成功の祝宴を開いていた。と言っても、御馳走はないが。アストラル体をクリアにするためのお茶があるだけである。トニがギターを弾いて場を盛り上げる。曲は楽しげなポップスで、中々上手な歌まで付いていた。

「トニって、音楽の才能もあったのね」

銀嶺が感心したように言う。

「ああ、アイツは結構器用なんだよな」

タラが笑いながら答えた。

「いや、それより、今日は新人銀嶺の活躍が凄かったな! 大蛇を千切っては投げ、千切っては投げ!」

グリンが大声で囃し立てた。

「やめてよ。千切ってはともかく、投げてなんかいないわよ」

「例えさ。意外とお前はやるな」

グリンはそう言って銀嶺の背中をバンッと叩いた。

「……フン。あの位は出来て当然だがな」

バルタが面白くなさそうな顔で水を差す。

「もちろん、お前さんはもっと凄かったぜ」

グリンはバルタに向かって乾杯した。

「当たり前だ。俺を新人の小娘と同列に扱うな」

「ま、とにかく作戦は成功したんだ。今日は細かい事はなしにしようや」

タラがそう言ってバルタの腕を叩いた。

「まあ良いだろう」

バルタはそれだけ言うと、茶を一気に飲み干した。銀嶺は空を見上げてみた。既に暗くなった広大な空に、色とりどりの星達が所狭しと輝いている。余りの壮大さに銀嶺はうっとりと星を見つめて思った。私の第二の人生も悪くないわ……
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