エデンを目指して
ドラゴン
「ああ、魔界には喋れる奴も居る」
「そうとも。ワシを他の雑魚共と一緒にしてもらっては困るな……ここがお前達の墓場だ」
ドラゴンは唸った。頭に生えている角から電気がほとばしり、銀嶺目掛けて襲いかかる。青白い電撃が銀嶺の身体にヒットした。
「キャッ!」
短い悲鳴を上げて銀嶺は倒れ込み、地面に伏せたまま動かなくなった。
「クソッ! 銀嶺!」
グリンが叫ぶが銀嶺は動かない。
「フフフ……他愛ないな」
ドラゴンはそう言うと、グリンにも電気を飛ばした。何とかかわすグリン。武蔵がワンワン吼え立てる。
「ウッ。犬か!」
ドラゴンは一瞬怯んだ。その隙にグリンが火炎をドラゴンの目玉に浴びせる。
シュウウッ!
鈍い音がして、目玉か焼かれた。
「おのれ! 小賢しい人間が!」
ドラゴンは大きく首を振って、グリンを追い返した。武蔵が銀嶺の顔を舐める。
「ウ……武蔵……」
銀嶺は気が付いて顔を上げた。グリンが壁際に追い詰められている。
「不味いわ!」
銀嶺は夢中で剣を振った。
ヒュウウ……
洞窟内の空気が渦を巻き始めた。最初は大きな緩やかなうねりだった。その渦が段々狭まっていくと共に、勢いを増してゆく。
「な、何? 何が起きてるの?」
銀嶺がそう呟くや、渦は激しい竜巻となり、ドラゴンの身体を巻き上げた。
「グリン、離れて!」
銀嶺の叫びが洞窟内に響いた。咄嗟にドラゴンから距離をおくグリン。
「な、何だ? どうしたと言うのだ?」
狼狽するドラゴンもろとも、竜巻は洞窟の天井を割って、天高く舞い上がった。ドラゴンの身体は、まるで洗濯機の洗い物の如く、グルグルと旋回しながら上空へと巻き上げられた。見えなくなるほどの高みまで上がると、今度は下方へ向かって旋回しながら唸りを上げる。そのまま、凄まじい勢いでドラゴンの身体は岩山に叩き付けられた。幾つもの肉片に分裂して、ドラゴンの身体は霧散した。
「おのれ……覚えておれよ……」
呪詛の言葉を残して、ドラゴンは消え去った。
グリンは呆然とその様子を見ていたが、やはり呆然と銀嶺を見つめた。こいつは……ただ者ではないな。初めは地球生まれの非力な女かと思っていたが、素晴らしいアストラルパワーだ。
「凄いな。お前がやったんだぞ」
グリンはボーッと突っ立っている銀嶺の肩を叩いた。銀嶺は呆けたような顔でグリンを見返す。
「私……」
「ああ! お前のアストラルパワーのなせる技さ。立派なウォーカーだ」
「エヘヘ」
銀嶺はそう言って笑うと、剣を鞘に戻した。なるほど、アストラルパワーとは、ウォーカーとはこういう事なのね、と銀嶺は頷く。地球で物理的肉体で居た時は力とは肉体の筋肉的力を指していた。だがここでは――アストラル宇宙では、アストラル体のパワーがものをいうのだ。武蔵が尻尾を振って脚に纏わりつく。
「武蔵、さっきの見た? やったわよ!」
銀嶺は興奮して武蔵を揉みくちゃにした。
「よーし、寝るぞ!」
二人と一頭は砂地へ戻った。念のため身体を火炎で焼くと、二人は砂の上へ大の字になって転がった。空に無数の星が煌めいているのが見える。銀嶺は着実に成長している――それを確認できただけでも、今回の旅は意味があった。グリンは満足だった。
「銀嶺」
グリンは上を見上げたまま言った。
「何?」
「お前は良い女だ」
そう言うと眠りに落ちていった。
翌朝、早くに目覚めた二人は、スペースカイトを飛ばして、宇宙船まで帰ってきた。タラとトニが船から出て二人を迎える。
「どうだった?」
トニが期待の篭った目で顛末を訊いた。
「もちろんやっつけたさ。途中に居たドラゴンも片付けたぞ」
「ドラゴンを? 二人だけで?」
「殺ったのは銀嶺だ。こいつは中々凄いぞ!」
グリンは立派な風使いになった銀嶺について、二人に話した。
「ふん! 風使いか、これは良い!」
タラが満足げに銀嶺の肩を叩く。
「いえ、それ程でもないわ」
「フフフ。そう謙遜するな。本当に凄かったぞ」
グリンはそう言って豪快に笑った。
「ところで銀嶺さん、睡蓮さんから荷物が届いてますよ。とりあえずブリーフィングルームに置いてあります」
トニが宇宙船の方に目をやる。
「ええ。睡蓮さんから聞いてるわ」
銀嶺はそう答えるとブリーフィングルームへ向かった。
ブリーフィングルームの壁に、銀嶺の背丈よりも大きな長方形の荷物が梱包されて立て掛けられていた。
「何です?」
トニが興味津々で訊く。
「絵画よ」
梱包をほどきながら銀嶺が答えた。
「絵画?」
「ええ。シャンバラにいる知り合いが描いた絵よ」
梱包を解くと、色鮮やかな油絵が現れた。ミラが描いたエデンの園である。
「エデンの園か……良い題材だ」
グリンが腕を組んで絵を見つめた。
「この絵はかなりアストラルエネルギーを上げてくれると思うのよ。だから、皆が見れるようにここに置いておくわ」
銀嶺はそう言って笑った。
「そうとも。ワシを他の雑魚共と一緒にしてもらっては困るな……ここがお前達の墓場だ」
ドラゴンは唸った。頭に生えている角から電気がほとばしり、銀嶺目掛けて襲いかかる。青白い電撃が銀嶺の身体にヒットした。
「キャッ!」
短い悲鳴を上げて銀嶺は倒れ込み、地面に伏せたまま動かなくなった。
「クソッ! 銀嶺!」
グリンが叫ぶが銀嶺は動かない。
「フフフ……他愛ないな」
ドラゴンはそう言うと、グリンにも電気を飛ばした。何とかかわすグリン。武蔵がワンワン吼え立てる。
「ウッ。犬か!」
ドラゴンは一瞬怯んだ。その隙にグリンが火炎をドラゴンの目玉に浴びせる。
シュウウッ!
鈍い音がして、目玉か焼かれた。
「おのれ! 小賢しい人間が!」
ドラゴンは大きく首を振って、グリンを追い返した。武蔵が銀嶺の顔を舐める。
「ウ……武蔵……」
銀嶺は気が付いて顔を上げた。グリンが壁際に追い詰められている。
「不味いわ!」
銀嶺は夢中で剣を振った。
ヒュウウ……
洞窟内の空気が渦を巻き始めた。最初は大きな緩やかなうねりだった。その渦が段々狭まっていくと共に、勢いを増してゆく。
「な、何? 何が起きてるの?」
銀嶺がそう呟くや、渦は激しい竜巻となり、ドラゴンの身体を巻き上げた。
「グリン、離れて!」
銀嶺の叫びが洞窟内に響いた。咄嗟にドラゴンから距離をおくグリン。
「な、何だ? どうしたと言うのだ?」
狼狽するドラゴンもろとも、竜巻は洞窟の天井を割って、天高く舞い上がった。ドラゴンの身体は、まるで洗濯機の洗い物の如く、グルグルと旋回しながら上空へと巻き上げられた。見えなくなるほどの高みまで上がると、今度は下方へ向かって旋回しながら唸りを上げる。そのまま、凄まじい勢いでドラゴンの身体は岩山に叩き付けられた。幾つもの肉片に分裂して、ドラゴンの身体は霧散した。
「おのれ……覚えておれよ……」
呪詛の言葉を残して、ドラゴンは消え去った。
グリンは呆然とその様子を見ていたが、やはり呆然と銀嶺を見つめた。こいつは……ただ者ではないな。初めは地球生まれの非力な女かと思っていたが、素晴らしいアストラルパワーだ。
「凄いな。お前がやったんだぞ」
グリンはボーッと突っ立っている銀嶺の肩を叩いた。銀嶺は呆けたような顔でグリンを見返す。
「私……」
「ああ! お前のアストラルパワーのなせる技さ。立派なウォーカーだ」
「エヘヘ」
銀嶺はそう言って笑うと、剣を鞘に戻した。なるほど、アストラルパワーとは、ウォーカーとはこういう事なのね、と銀嶺は頷く。地球で物理的肉体で居た時は力とは肉体の筋肉的力を指していた。だがここでは――アストラル宇宙では、アストラル体のパワーがものをいうのだ。武蔵が尻尾を振って脚に纏わりつく。
「武蔵、さっきの見た? やったわよ!」
銀嶺は興奮して武蔵を揉みくちゃにした。
「よーし、寝るぞ!」
二人と一頭は砂地へ戻った。念のため身体を火炎で焼くと、二人は砂の上へ大の字になって転がった。空に無数の星が煌めいているのが見える。銀嶺は着実に成長している――それを確認できただけでも、今回の旅は意味があった。グリンは満足だった。
「銀嶺」
グリンは上を見上げたまま言った。
「何?」
「お前は良い女だ」
そう言うと眠りに落ちていった。
翌朝、早くに目覚めた二人は、スペースカイトを飛ばして、宇宙船まで帰ってきた。タラとトニが船から出て二人を迎える。
「どうだった?」
トニが期待の篭った目で顛末を訊いた。
「もちろんやっつけたさ。途中に居たドラゴンも片付けたぞ」
「ドラゴンを? 二人だけで?」
「殺ったのは銀嶺だ。こいつは中々凄いぞ!」
グリンは立派な風使いになった銀嶺について、二人に話した。
「ふん! 風使いか、これは良い!」
タラが満足げに銀嶺の肩を叩く。
「いえ、それ程でもないわ」
「フフフ。そう謙遜するな。本当に凄かったぞ」
グリンはそう言って豪快に笑った。
「ところで銀嶺さん、睡蓮さんから荷物が届いてますよ。とりあえずブリーフィングルームに置いてあります」
トニが宇宙船の方に目をやる。
「ええ。睡蓮さんから聞いてるわ」
銀嶺はそう答えるとブリーフィングルームへ向かった。
ブリーフィングルームの壁に、銀嶺の背丈よりも大きな長方形の荷物が梱包されて立て掛けられていた。
「何です?」
トニが興味津々で訊く。
「絵画よ」
梱包をほどきながら銀嶺が答えた。
「絵画?」
「ええ。シャンバラにいる知り合いが描いた絵よ」
梱包を解くと、色鮮やかな油絵が現れた。ミラが描いたエデンの園である。
「エデンの園か……良い題材だ」
グリンが腕を組んで絵を見つめた。
「この絵はかなりアストラルエネルギーを上げてくれると思うのよ。だから、皆が見れるようにここに置いておくわ」
銀嶺はそう言って笑った。