エデンを目指して
移動
翌日、宇宙船団は移動を開始した。
「何処へ向かう訳?」
銀嶺がグリンに訊く。
「中央司令部から連絡があって、もうこの星の魔界は大方片付いたそうだ。後はこの地点に巣くっている魔界だけなんだが――」
グリンはそう言って地図を見せた。
「結構な規模の巣なんで、皆で総力戦だ。そのために集結するんだ」
「最後の決戦て訳ね」
「この星ではな」
銀嶺は窓から外を眺めた。眼下に赤茶けた砂の海が広がっている。風で煽られて波打った砂漠は、本当に海の様だった。海から生物は生まれてきたのだという。なら、魔界は何処から生まれてきたのだろうか? 最初から宇宙の始まりと共に居たのだろうか? それとも、初めは何か違う存在だった者が、何かの理由で魔界になったのか? 銀嶺の胸にそんな疑問がわき起こったが、すぐにそれを消した。今はそんな事を考えている場合ではない――最後の決戦への覚悟を決めなくては。銀嶺は窓から離れると、シートの背もたれに身体を埋めた。
夕方、宇宙船は集結地点へ到着した。窓から外を見た銀嶺は驚いた。物凄い数の宇宙船が並んでいる。中から出てきたウォーカーの数は数百にも及んだ。
「これだけのウォーカーが各地で戦っていたという訳ね……」
銀嶺は溜め息を付いた。そして同時に身震いした。これだけの軍勢が必要という事は、今回の戦いは今までとは規模が違うのだ。銀嶺はドキドキしながら外へ出た。
無数のウォーカー達が外へ出て、お互い挨拶したり、談笑したりしている。その眺めは壮観という他なかった。
「よう! 新人! いよいよ本格的な戦闘だぞ。チビるなよ」
バルタが銀嶺に肘鉄を食らわせてきた。
「凄い数ね」
「まあな。だが、この位は当然だな。何しろ、今回は最終決戦だ。今までとは訳が違う」
「よう、バルタ」
グリンがバルタの肩を叩いた。
「グリン、今から作戦会議だ。あそこの指令船に行くぞ」
「了解だ。銀嶺、行ってくるよ」
「ええ。私達はここで待つわ」
グリンとバルタは指令船まで歩いていった。
「ワン!」
興奮した武蔵が銀嶺に飛び付いた。
「武蔵……お前も驚いたでしょう? こんなに沢山ウォーカーが居たとはね!」
銀嶺は武蔵の頭を撫でた。
「銀嶺、準備は良いか? 今回は凄くなりそうだぞ」
タラが背中を叩く。
「ええ。そうね。これだけウォーカーを集めたっていう事は、敵もかなりの規模という訳よね」
「だろうな。だが、惑星ハザールの魔界はここで最後だ。コイツらを殺れば、この星は元に戻る。高波動エネルギーフィールドも戻るだろうし、そうしたら住みやすい楽園になるさ」
「この頭に響く魔界の精神波も届かなくなる訳ね」
「そうさ」
「ねえ、戦闘の前に、エデンの絵を見てエネルギーを上げない?」
「そうだな」
二人はブリーフィングルームへ戻った。既にトニが腕組みして絵を眺めていた。
「これは中々素晴らしい出来ですよ。そう思いませんか?」
トニは振り向かずに背後の二人に言った。
「ええ。私もそう思うわよ」
「誰の絵です?」
「カイラスに居る知り合いの画家よ。ミラというの。良い娘だわ」
「実際のエデンの園も、こんなだったのかね?」
森を見てタラが呟く。
「さあ……それは分かりませんね。何しろ僕らは実際のエデンの園を知らないんですからね」
「多分、これは飽くまで空想でしょう? ただ、こんなふうに美に溢れて、素晴らしいエネルギーに満ちた空間という事ではないのかしら?」
「裸だったんですかね?」
「どうかしらね? まあ、この絵では人間の純粋さを表すために裸に描いているだけじゃない?」
「地球にも、エデンの話しは伝わってるんですよね?」
「ええ。旧約聖書に書いてあるわ。地球でも、昔はエデンの楽園を理想世界として、それを目指すべき、という教えがあったのよ」
「地球だけじゃありませんよ。宇宙中にあったんです」
「じゃあ、やはり私達は皆、初めはエデンで生まれたのかしら?」
「そうかも知れませんね……」
三人が絵に魅入っていると、グリンが戻ってきた。
「作戦会議の結果だ」
グリンはそう言って説明を始めた。
「ここから五キロ程の所に、魔界の城がある」
「城!?」
「そうだ。今回は巣なんて物じゃない。人工物と変わらない、文字どおり要塞だそうだ。城には恐らく、魔界の司令官以下、部下が階層毎に配備されて守っている。要塞は高い城跡で囲まれているそうだが、これはスペースカイトで乗り越えられるから、それ程問題ではない。ただ――」
「何です?」
「これ程の城を作れるとなると、今まで遭遇してきた奴等とはレベルが違う事が推察される。油断は禁物だ」
グリンはそう言って地図を広げた。
「俺達はこの方角から要塞へ攻め込む。城壁には守備隊が居るだろうが、そいつらは出来るだけ相手にするな。一気に天守閣まで攻め込んで、魔界の司令官を殺るんだ。俺達の任務は以上だ」
「魔界の司令官……」
銀嶺が呟いた。果たしてどんな奴なのか? 銀嶺はあれこれ思いを巡らしたが、想像がつかなかった。
「何処へ向かう訳?」
銀嶺がグリンに訊く。
「中央司令部から連絡があって、もうこの星の魔界は大方片付いたそうだ。後はこの地点に巣くっている魔界だけなんだが――」
グリンはそう言って地図を見せた。
「結構な規模の巣なんで、皆で総力戦だ。そのために集結するんだ」
「最後の決戦て訳ね」
「この星ではな」
銀嶺は窓から外を眺めた。眼下に赤茶けた砂の海が広がっている。風で煽られて波打った砂漠は、本当に海の様だった。海から生物は生まれてきたのだという。なら、魔界は何処から生まれてきたのだろうか? 最初から宇宙の始まりと共に居たのだろうか? それとも、初めは何か違う存在だった者が、何かの理由で魔界になったのか? 銀嶺の胸にそんな疑問がわき起こったが、すぐにそれを消した。今はそんな事を考えている場合ではない――最後の決戦への覚悟を決めなくては。銀嶺は窓から離れると、シートの背もたれに身体を埋めた。
夕方、宇宙船は集結地点へ到着した。窓から外を見た銀嶺は驚いた。物凄い数の宇宙船が並んでいる。中から出てきたウォーカーの数は数百にも及んだ。
「これだけのウォーカーが各地で戦っていたという訳ね……」
銀嶺は溜め息を付いた。そして同時に身震いした。これだけの軍勢が必要という事は、今回の戦いは今までとは規模が違うのだ。銀嶺はドキドキしながら外へ出た。
無数のウォーカー達が外へ出て、お互い挨拶したり、談笑したりしている。その眺めは壮観という他なかった。
「よう! 新人! いよいよ本格的な戦闘だぞ。チビるなよ」
バルタが銀嶺に肘鉄を食らわせてきた。
「凄い数ね」
「まあな。だが、この位は当然だな。何しろ、今回は最終決戦だ。今までとは訳が違う」
「よう、バルタ」
グリンがバルタの肩を叩いた。
「グリン、今から作戦会議だ。あそこの指令船に行くぞ」
「了解だ。銀嶺、行ってくるよ」
「ええ。私達はここで待つわ」
グリンとバルタは指令船まで歩いていった。
「ワン!」
興奮した武蔵が銀嶺に飛び付いた。
「武蔵……お前も驚いたでしょう? こんなに沢山ウォーカーが居たとはね!」
銀嶺は武蔵の頭を撫でた。
「銀嶺、準備は良いか? 今回は凄くなりそうだぞ」
タラが背中を叩く。
「ええ。そうね。これだけウォーカーを集めたっていう事は、敵もかなりの規模という訳よね」
「だろうな。だが、惑星ハザールの魔界はここで最後だ。コイツらを殺れば、この星は元に戻る。高波動エネルギーフィールドも戻るだろうし、そうしたら住みやすい楽園になるさ」
「この頭に響く魔界の精神波も届かなくなる訳ね」
「そうさ」
「ねえ、戦闘の前に、エデンの絵を見てエネルギーを上げない?」
「そうだな」
二人はブリーフィングルームへ戻った。既にトニが腕組みして絵を眺めていた。
「これは中々素晴らしい出来ですよ。そう思いませんか?」
トニは振り向かずに背後の二人に言った。
「ええ。私もそう思うわよ」
「誰の絵です?」
「カイラスに居る知り合いの画家よ。ミラというの。良い娘だわ」
「実際のエデンの園も、こんなだったのかね?」
森を見てタラが呟く。
「さあ……それは分かりませんね。何しろ僕らは実際のエデンの園を知らないんですからね」
「多分、これは飽くまで空想でしょう? ただ、こんなふうに美に溢れて、素晴らしいエネルギーに満ちた空間という事ではないのかしら?」
「裸だったんですかね?」
「どうかしらね? まあ、この絵では人間の純粋さを表すために裸に描いているだけじゃない?」
「地球にも、エデンの話しは伝わってるんですよね?」
「ええ。旧約聖書に書いてあるわ。地球でも、昔はエデンの楽園を理想世界として、それを目指すべき、という教えがあったのよ」
「地球だけじゃありませんよ。宇宙中にあったんです」
「じゃあ、やはり私達は皆、初めはエデンで生まれたのかしら?」
「そうかも知れませんね……」
三人が絵に魅入っていると、グリンが戻ってきた。
「作戦会議の結果だ」
グリンはそう言って説明を始めた。
「ここから五キロ程の所に、魔界の城がある」
「城!?」
「そうだ。今回は巣なんて物じゃない。人工物と変わらない、文字どおり要塞だそうだ。城には恐らく、魔界の司令官以下、部下が階層毎に配備されて守っている。要塞は高い城跡で囲まれているそうだが、これはスペースカイトで乗り越えられるから、それ程問題ではない。ただ――」
「何です?」
「これ程の城を作れるとなると、今まで遭遇してきた奴等とはレベルが違う事が推察される。油断は禁物だ」
グリンはそう言って地図を広げた。
「俺達はこの方角から要塞へ攻め込む。城壁には守備隊が居るだろうが、そいつらは出来るだけ相手にするな。一気に天守閣まで攻め込んで、魔界の司令官を殺るんだ。俺達の任務は以上だ」
「魔界の司令官……」
銀嶺が呟いた。果たしてどんな奴なのか? 銀嶺はあれこれ思いを巡らしたが、想像がつかなかった。