エデンを目指して
陥落
「やったな。司令官を殺ったんだ、これで奴等の足並みは崩れるぞ」
タラが手を叩いた。
「そうだな……おい、銀嶺……」
グリンは銀嶺に刺さった短剣を抜くと、肩を揺すった。
「ヤバイのか?」
タラが不安な表情で訊く。
「分からん」
銀嶺は気を失ったまま、床に転がっていた。
「一応、焼いておくか」
グリンが火炎で銀嶺を炙る。
「う……」
微かにうめいて、銀嶺は目を開けた。
「銀嶺!」
タラが抱き起こす。銀嶺は胸に手をやると、
「何だかちょっと痛むわ」
と傷口を見た。
「多分アストラル体に傷がついたな。シャンバラに戻ったらちゃんとした治療を受けた方が良い」
グリンはそう言って、立ち上がろうとする銀嶺に手を貸した。銀嶺は部屋を見回す。
「殺ったのね?」
「ああ、俺とタラで――」
そうグリンが言いかけた時である。再び、あの割れ鐘の様な歌声が響いた。
「ッ!――」
「あれの出所を突き止めよう。これじゃ他のウォーカーも難儀する」
グリンはそう言って廊下へ出た。
「よう! グリンか!」
威勢の良い声に振り向くと、バルタ以下、数名のウォーカーが居た。
「バルタか! お前がここまで来たっていう事は……」
「おう、城の魔界は大方片付いたぜ。後は残党狩りだ。司令官は?」
「殺ったよ」
「フフ、流石だな。で、どうするんだ?」
「俺達は、この割れ鐘の声の出所を突き止める」
「突き止めてどうする?」
「分からん。状況次第だな」
「そうか。良し、行ってくれ。まだ城内に残党が隠れているから、気を付けてな!」
「おう!」
グリンは武蔵の顔を両手で包んで訊いた。
「武蔵。あの声が何処から来るか分かるか?」
「ワン!」
武蔵はもちろんです、といった顔で答える。
「良し、声の元まで俺達を案内してくれ」
武蔵はクルリと身体を一回転回すと、廊下を走り始めた。三人が後に続く。武蔵は突き当たりの階段をかけ下りた。下りたすぐに、魔界の残党の常備兵が、物陰から剣を振り上げてグリンに斬りかかった。グリンはすかさず火炎で兵を焼く。再び武蔵が走り始める。三人は残党を倒しながら、武蔵に付いて城の最下層まで下りた。
最下層は狭い円柱型に地面をくりぬいたダンジョンで、石を積み上げて作られた壁に木の螺旋階段が地下深くまで伸びていた。声はまだ響いている。辺りは薄暗く、三人は慎重に軋む階段を下りていった。階段を下りる度に、声は大きくなっていく。最下層の分厚い木のドアの前まで来ると、武蔵は立ち止まり、前足でドアを引っ掻いた。
「この中だな」
グリンが呟く。ドアには鋼鉄製の南京鍵がかかっていた。
「皆、ちょっと下がっていてくれ」
タラはそう言うと、大きく斧を振り上げた。
「フンッ!」
思い切りドアに叩き付けて、粉砕する。壊れたドアを蹴破って、三人は中へ入った。今まで響いていた声がピタリと止む。
暗い部屋の中にうっすらと人影が見えた――と、次の瞬間、銀嶺に向かって何かが突進してきた。咄嗟に剣を抜く銀嶺。相手は甲冑姿の魔界の士官の様である。銀嶺の剣が甲冑の脇腹を掠めた。銀嶺は勢い余ってそのままつんのめる。振り向き様、士官の背中を斬り付けると同時に、グリンが火炎を浴びせた。
「グウッ――」
士官はうめき声を一つ上げると、消えていった。グリンの炎に照らされて、少年の姿が暗闇に浮かび上がった。後ろ手に手錠を嵌められ、足にも拘束帯を付けられて、椅子に座っていた。色白の肌に明るい茶髪、薄緑の目をした、年の頃十三、四歳の男の子だった。
「君は――もしかして、オアシスの聖歌隊のキリンか?」
グリンが駆け寄って顔をよく見る。
「そ、そうです。何故僕の事知ってるんです?」
「村長から頼まれたのさ。君を探して連れ戻すように」
「そ――」
話そうとしてキリンは言葉に詰まり、ハラハラと涙をこぼした。キリンはしばらく嗚咽していたが、鳴きはらして落ち着くと、ポツリポツリと話し始めた。
「僕――ある時魔界が村を襲ってきて、僕は拐われました。そのままここへ連れてこられて――魔界の歌を無理やり覚えさせられたんです。そして、魔界の陰性エネルギーを強めるために歌えと脅されていました……」
キリンはここまで喋ると、再び涙を落とした。
「もう大丈夫だ」
グリンはそう言うと、火炎をレーザーの様に細く集めて、手錠と拘束帯を焼き切った。
「貴方方は?」
「安心しろ。俺達はウォーカーだ。君の村を襲った魔界も退治した。この星の魔界勢力はもうこの城だけだ。それも時間の問題だ。司令官も殺ったしな」
「そうですか――」
キリンはそう言うと気を失って背もたれに倒れ込んだ。
「良し、俺達の任務は完了した。この坊主を担いで、ここから引き上げよう」
グリンがそう言ってキリンを肩に担いだ矢先、城が大きく振動した。グラグラと床が揺れて、壁が崩れ始める。
「何かしら?」
「魔界が全滅して、陰性エネルギーで支えていた城が崩壊を始めたんだ。急ぐぞ。カイトの所まで戻るんだ!」
一同は部屋を飛び出した。
タラが手を叩いた。
「そうだな……おい、銀嶺……」
グリンは銀嶺に刺さった短剣を抜くと、肩を揺すった。
「ヤバイのか?」
タラが不安な表情で訊く。
「分からん」
銀嶺は気を失ったまま、床に転がっていた。
「一応、焼いておくか」
グリンが火炎で銀嶺を炙る。
「う……」
微かにうめいて、銀嶺は目を開けた。
「銀嶺!」
タラが抱き起こす。銀嶺は胸に手をやると、
「何だかちょっと痛むわ」
と傷口を見た。
「多分アストラル体に傷がついたな。シャンバラに戻ったらちゃんとした治療を受けた方が良い」
グリンはそう言って、立ち上がろうとする銀嶺に手を貸した。銀嶺は部屋を見回す。
「殺ったのね?」
「ああ、俺とタラで――」
そうグリンが言いかけた時である。再び、あの割れ鐘の様な歌声が響いた。
「ッ!――」
「あれの出所を突き止めよう。これじゃ他のウォーカーも難儀する」
グリンはそう言って廊下へ出た。
「よう! グリンか!」
威勢の良い声に振り向くと、バルタ以下、数名のウォーカーが居た。
「バルタか! お前がここまで来たっていう事は……」
「おう、城の魔界は大方片付いたぜ。後は残党狩りだ。司令官は?」
「殺ったよ」
「フフ、流石だな。で、どうするんだ?」
「俺達は、この割れ鐘の声の出所を突き止める」
「突き止めてどうする?」
「分からん。状況次第だな」
「そうか。良し、行ってくれ。まだ城内に残党が隠れているから、気を付けてな!」
「おう!」
グリンは武蔵の顔を両手で包んで訊いた。
「武蔵。あの声が何処から来るか分かるか?」
「ワン!」
武蔵はもちろんです、といった顔で答える。
「良し、声の元まで俺達を案内してくれ」
武蔵はクルリと身体を一回転回すと、廊下を走り始めた。三人が後に続く。武蔵は突き当たりの階段をかけ下りた。下りたすぐに、魔界の残党の常備兵が、物陰から剣を振り上げてグリンに斬りかかった。グリンはすかさず火炎で兵を焼く。再び武蔵が走り始める。三人は残党を倒しながら、武蔵に付いて城の最下層まで下りた。
最下層は狭い円柱型に地面をくりぬいたダンジョンで、石を積み上げて作られた壁に木の螺旋階段が地下深くまで伸びていた。声はまだ響いている。辺りは薄暗く、三人は慎重に軋む階段を下りていった。階段を下りる度に、声は大きくなっていく。最下層の分厚い木のドアの前まで来ると、武蔵は立ち止まり、前足でドアを引っ掻いた。
「この中だな」
グリンが呟く。ドアには鋼鉄製の南京鍵がかかっていた。
「皆、ちょっと下がっていてくれ」
タラはそう言うと、大きく斧を振り上げた。
「フンッ!」
思い切りドアに叩き付けて、粉砕する。壊れたドアを蹴破って、三人は中へ入った。今まで響いていた声がピタリと止む。
暗い部屋の中にうっすらと人影が見えた――と、次の瞬間、銀嶺に向かって何かが突進してきた。咄嗟に剣を抜く銀嶺。相手は甲冑姿の魔界の士官の様である。銀嶺の剣が甲冑の脇腹を掠めた。銀嶺は勢い余ってそのままつんのめる。振り向き様、士官の背中を斬り付けると同時に、グリンが火炎を浴びせた。
「グウッ――」
士官はうめき声を一つ上げると、消えていった。グリンの炎に照らされて、少年の姿が暗闇に浮かび上がった。後ろ手に手錠を嵌められ、足にも拘束帯を付けられて、椅子に座っていた。色白の肌に明るい茶髪、薄緑の目をした、年の頃十三、四歳の男の子だった。
「君は――もしかして、オアシスの聖歌隊のキリンか?」
グリンが駆け寄って顔をよく見る。
「そ、そうです。何故僕の事知ってるんです?」
「村長から頼まれたのさ。君を探して連れ戻すように」
「そ――」
話そうとしてキリンは言葉に詰まり、ハラハラと涙をこぼした。キリンはしばらく嗚咽していたが、鳴きはらして落ち着くと、ポツリポツリと話し始めた。
「僕――ある時魔界が村を襲ってきて、僕は拐われました。そのままここへ連れてこられて――魔界の歌を無理やり覚えさせられたんです。そして、魔界の陰性エネルギーを強めるために歌えと脅されていました……」
キリンはここまで喋ると、再び涙を落とした。
「もう大丈夫だ」
グリンはそう言うと、火炎をレーザーの様に細く集めて、手錠と拘束帯を焼き切った。
「貴方方は?」
「安心しろ。俺達はウォーカーだ。君の村を襲った魔界も退治した。この星の魔界勢力はもうこの城だけだ。それも時間の問題だ。司令官も殺ったしな」
「そうですか――」
キリンはそう言うと気を失って背もたれに倒れ込んだ。
「良し、俺達の任務は完了した。この坊主を担いで、ここから引き上げよう」
グリンがそう言ってキリンを肩に担いだ矢先、城が大きく振動した。グラグラと床が揺れて、壁が崩れ始める。
「何かしら?」
「魔界が全滅して、陰性エネルギーで支えていた城が崩壊を始めたんだ。急ぐぞ。カイトの所まで戻るんだ!」
一同は部屋を飛び出した。