エデンを目指して
医療センター
銀嶺とグリンはカイラスの医療センターに居た。担当医に言われて銀嶺は胸の傷を見せた。
「ふーむ。これは、かなり強い魔にやられましたね。普通の火じゃ治らんでしょう」
「どうすれば良いんですか?」
「高級勢力の光が必要ですね。白檀さんに頼んでみましょう」
「白檀さん、ここにいらっしゃるんですか?」
「ええ。白檀さんの専門は魔界にやられた人の治療ですからね」
「そうだったんですか……」
「お待ちください。今呼びましたから」
医師はそう言ってカルテに何やら記入した。
しばらくすると白檀が診察室に入ってきた。褐色の肌に真っ白な長い髪。アメジストの様な紫の瞳……。相変わらず白檀は神秘的な見た目をしている。
「お久しぶりです、銀嶺さん」
「白檀さん……あの、私……」
「ええ。さっきドクターから念話で聞きましたよ。胸に傷が着いたんですね。すみませんけど、ちょっと見せてください」
銀嶺は黙って服を捲った。白檀は傷を見ると、着ていたローブの袖を捲り、手をかざしてなぞった。
「結構深く傷付きましたね。大丈夫ですよ、光の治療を行えば治ります」
白檀はそう言うと、両手を傷の上にかざして、
「光よ 邪悪な足跡を消し去れ 穢れ無き魂よよみがえれ」
と唱えた。
シュウウ……
その途端、部屋一杯に眩しい白い光が溢れて広がる。銀嶺は余りの眩しさに目が眩んだ。光は段々と一点に集まっていき、白檀の手の前で光の玉となった。白檀はその光の玉を傷に刷り込んだ。銀嶺は胸に暖かい熱を感じた。さっきまで傷の辺りに何か硬い凝りの様な物があったのが、じんわり溶けていった。
「……終わりましたよ」
袖を元に戻しながら白檀が微笑む。
「もう良いんですか?」
「ええ。十分光を送りましたから、大丈夫な筈ですよ」
銀嶺は胸を触ってみた。心なしか軽くなった様な気がした。
「白檀さん、昨日ここへ連れてきた男の子の事なんですけど」
「キリンくんですね」
「はい。あの子、どうなったか分かりますか?」
「ええ。あの子にも光の治療を施しました。でも……」
白檀の美しい顔が曇る。
「でも?」
「あの子は魔界の邪悪な歌を覚えてしまいました……あのままにしておく訳にはいきません。一度記憶を消す必要があります」
「どうするんです? まさか……」
銀嶺に緊張が走った。まさか、殺す……とか?
「地球へ転生させます」
「は?」
「あの子の魂を地球人として生まれ変わらせます」
「それって、アストラル宇宙では死ぬっていう事ですよね?」
「まあ、そうとも言えますが、魂は消えませんからね。生活の場が変わるだけです。地球人として生まれ直して、魔界の歌の記憶を消し――恐らくあの子の事ですから、地球でまた聖歌隊に入るのじゃないでしょうか? そして時が来たらまた迎えに行きます」
銀嶺は呆気にとられて白檀の顔を見つめた。生まれ直してって、随分と簡単に言う。
「物理肉体やアストラル体の寿命には限りがありますが、魂は永遠ですよ」
銀嶺の心を見透かしたように、白檀は微笑んだ。
診察室を出た銀嶺は待合室で待っているグリンの所へ向かった。グリンは武蔵と遊んでいた。
「よう、もう良いのか?」
グリンは銀嶺の姿を見ると、ニカッと笑った。
「ええ。白檀さんの光の治療を受けたわ。それより、キリンだけどね……」
銀嶺はキリンの事をグリンに話した。
「ふーむ。生まれ直しか。まあ、別段驚く事では無いがな」
グリンは腕くみして答えた。そのアッサリした返答に、銀嶺は少々拍子抜けする。
「そう?」
「俺達だって、今まで何度も生まれ変わって来たんだぜ。アイツが生まれ変わったって、何の不思議もないさ。アストラル宇宙にこれ以上魔界の影響を広めないためと、アイツ自身のためだ」
「何のために私達生まれ変わるのかしら?」
素朴な疑問だった。
「最終的にはエデンを目指すためさ」
「エデンに到達したら、その後は?」
「分からんね。案外あっさり消えるのかもな」
グリンはまるで他人事の様に言う。
「消えるだなんて……」
「まあ、それはまだ先の話さ。今の俺達はまだ魔界と戦う段階だ。俺が今世、アストラル宇宙に生まれたのはそのためだと思っているよ」
「グリンの魂は戦士なのかしら?」
「お前もそうさ」
銀嶺はしばらく考え込んだ。
「ねえ……エデンの真の姿って、どうしたら分かるかしら?」
「またそれか。そうだな、疑似体験なら出来なくもないかもな」
「疑似体験?」
「まあ、今日はここまでにしようや。お前がそんなにエデンの事が気になるっていうなら、俺に考えがある。少し時間をくれないか?」
「……分かったわ」
銀嶺は溜め息を付くと、待合室を出た。
「ふーむ。これは、かなり強い魔にやられましたね。普通の火じゃ治らんでしょう」
「どうすれば良いんですか?」
「高級勢力の光が必要ですね。白檀さんに頼んでみましょう」
「白檀さん、ここにいらっしゃるんですか?」
「ええ。白檀さんの専門は魔界にやられた人の治療ですからね」
「そうだったんですか……」
「お待ちください。今呼びましたから」
医師はそう言ってカルテに何やら記入した。
しばらくすると白檀が診察室に入ってきた。褐色の肌に真っ白な長い髪。アメジストの様な紫の瞳……。相変わらず白檀は神秘的な見た目をしている。
「お久しぶりです、銀嶺さん」
「白檀さん……あの、私……」
「ええ。さっきドクターから念話で聞きましたよ。胸に傷が着いたんですね。すみませんけど、ちょっと見せてください」
銀嶺は黙って服を捲った。白檀は傷を見ると、着ていたローブの袖を捲り、手をかざしてなぞった。
「結構深く傷付きましたね。大丈夫ですよ、光の治療を行えば治ります」
白檀はそう言うと、両手を傷の上にかざして、
「光よ 邪悪な足跡を消し去れ 穢れ無き魂よよみがえれ」
と唱えた。
シュウウ……
その途端、部屋一杯に眩しい白い光が溢れて広がる。銀嶺は余りの眩しさに目が眩んだ。光は段々と一点に集まっていき、白檀の手の前で光の玉となった。白檀はその光の玉を傷に刷り込んだ。銀嶺は胸に暖かい熱を感じた。さっきまで傷の辺りに何か硬い凝りの様な物があったのが、じんわり溶けていった。
「……終わりましたよ」
袖を元に戻しながら白檀が微笑む。
「もう良いんですか?」
「ええ。十分光を送りましたから、大丈夫な筈ですよ」
銀嶺は胸を触ってみた。心なしか軽くなった様な気がした。
「白檀さん、昨日ここへ連れてきた男の子の事なんですけど」
「キリンくんですね」
「はい。あの子、どうなったか分かりますか?」
「ええ。あの子にも光の治療を施しました。でも……」
白檀の美しい顔が曇る。
「でも?」
「あの子は魔界の邪悪な歌を覚えてしまいました……あのままにしておく訳にはいきません。一度記憶を消す必要があります」
「どうするんです? まさか……」
銀嶺に緊張が走った。まさか、殺す……とか?
「地球へ転生させます」
「は?」
「あの子の魂を地球人として生まれ変わらせます」
「それって、アストラル宇宙では死ぬっていう事ですよね?」
「まあ、そうとも言えますが、魂は消えませんからね。生活の場が変わるだけです。地球人として生まれ直して、魔界の歌の記憶を消し――恐らくあの子の事ですから、地球でまた聖歌隊に入るのじゃないでしょうか? そして時が来たらまた迎えに行きます」
銀嶺は呆気にとられて白檀の顔を見つめた。生まれ直してって、随分と簡単に言う。
「物理肉体やアストラル体の寿命には限りがありますが、魂は永遠ですよ」
銀嶺の心を見透かしたように、白檀は微笑んだ。
診察室を出た銀嶺は待合室で待っているグリンの所へ向かった。グリンは武蔵と遊んでいた。
「よう、もう良いのか?」
グリンは銀嶺の姿を見ると、ニカッと笑った。
「ええ。白檀さんの光の治療を受けたわ。それより、キリンだけどね……」
銀嶺はキリンの事をグリンに話した。
「ふーむ。生まれ直しか。まあ、別段驚く事では無いがな」
グリンは腕くみして答えた。そのアッサリした返答に、銀嶺は少々拍子抜けする。
「そう?」
「俺達だって、今まで何度も生まれ変わって来たんだぜ。アイツが生まれ変わったって、何の不思議もないさ。アストラル宇宙にこれ以上魔界の影響を広めないためと、アイツ自身のためだ」
「何のために私達生まれ変わるのかしら?」
素朴な疑問だった。
「最終的にはエデンを目指すためさ」
「エデンに到達したら、その後は?」
「分からんね。案外あっさり消えるのかもな」
グリンはまるで他人事の様に言う。
「消えるだなんて……」
「まあ、それはまだ先の話さ。今の俺達はまだ魔界と戦う段階だ。俺が今世、アストラル宇宙に生まれたのはそのためだと思っているよ」
「グリンの魂は戦士なのかしら?」
「お前もそうさ」
銀嶺はしばらく考え込んだ。
「ねえ……エデンの真の姿って、どうしたら分かるかしら?」
「またそれか。そうだな、疑似体験なら出来なくもないかもな」
「疑似体験?」
「まあ、今日はここまでにしようや。お前がそんなにエデンの事が気になるっていうなら、俺に考えがある。少し時間をくれないか?」
「……分かったわ」
銀嶺は溜め息を付くと、待合室を出た。