エデンを目指して
マージナル
「えっ?」
「俺は半年前に惑星タキマに居たんだが、そこでとある冒険者に会ってな。そいつが言うには、エデンはアズーリ空域にあったそうだ。それから半年経ったから、今では移動しているだろうが、その空域を基点に探せば見つかるんじゃないか?」
「私が昨日調べたのは無意味だった訳ね……」
「まあそう言うな。小型宇宙船を一隻借りたんだ。一緒にエデンを探しに行こうぜ」
「良いわよ。いつ行くの?」
「明日からさ。明日の朝、エアポートへ来てくれ。武蔵も連れてな」
「分かったわ」
翌朝、銀嶺はエアポートへ向かった。早朝のエアポートには人影は疎らで、離陸を待つ宇宙船が所狭しと並んでいる。その中に小さなレモンイエローの流線型の宇宙船が停泊していた。
「あれね」
銀嶺はそう呟くと、カートで宇宙船まで乗り付けた。
「よう、来たな!」
タラップにグリンが顔を出す。
「レジーナ号だ。乗れよ。武蔵もな」
銀嶺はタラップを登ると、中を見回した。前向きにシートが四つ並んでいる。随分と小ぢんまりした船内だが、乗員はグリンと武蔵と銀嶺だけなのだ。これで十分である。
「座ったか? じゃあ出発するぜ」
グリンはそう言うと、コクピットヘ向かった。
「アズーリ空域まで一気に行くぞ」
グリンはエンジンを立ち上げて操縦管を握る。レジーナ号は音もなく浮かび上がった。
「アズーリ空域まではどの位かしら?」
「そうだな、丸二日だな」
「二日……」
「暇なら、そこに雑誌を持ってきたから、それでも読んでると良い」
銀嶺は背もたれに付いているカバーに入った雑誌を取り出した。
『宇宙の神秘』
そうタイトルが付いていた。銀嶺はパラパラとページを捲る。途中、全面フルカラーの見開きを見付けて手を止めた。ページには、真っ暗な宇宙空間にまるで亡霊の様に人の姿をした透明な何かが並んで浮かんでいた。
「何かしら……これ」
銀嶺は次のページに書かれた説明文を読んだ。宇宙の何処かには、死んで宇宙空間をさ迷う亡霊達の隊列に出くわす所があるという。そこはマージナルと呼ばれている。そして、その亡霊達を回収する部隊もいるらしいのだが、魔界もその亡霊の魂を狙っており、時に高級勢力側と魂の争奪戦になるらしい。
「こんな所もあるのね……ねえ、グリン! マージナルって、何処にあるか知ってる?」
「ああ、確か、カラン空域の畔だ。魔界との境界地域だな」
「見てみたいわ」
「良いが、危険だぞ。あそこは時々魔界が出没するからな」
「剣を持ってきたわよ?」
「俺だって火炎放射器があるがな。まあ良い。様子を見て、大丈夫そうなら行ってみるか。予定変更だ。マージナルへ向かうぞ」
それから三日かけて、レジーナ号はマージナルへ到着した。グリンはしばらく近くの惑星の影に隠れて様子を窺ったが、魔界の姿はなかった。
「大丈夫そうだな」
グリンは惑星を離れてマージナルへ突入する。真っ暗な空間に、ぼんやりと白く光る一本の筋が見えた。筋はユラユラと揺らめきながら、ゆっくりと進んでいた。
「あれね……近くで良く見たいわ」
グリンは宇宙船を筋に近付けた。筋は大勢の人が列をなして出来た物だった。グリンは人の顔が分かる位近くまで接近した。亡霊達は虚ろな表情をして、ぐったり力の抜けた身体でさ迷っていた。何処へ行くでもなく宇宙空間を彷徨くその脱け殻の様な姿を見て、銀嶺は軽く身震いした。
「でも、回収部隊が居るのよね?」
銀嶺は自分を落ち着かせるように呟いた。
「ああ。だが、ここに居る奴等は回収されるのを嫌がる事があるんだ」
「そうなの!? 何故かしら?」
「この亡霊達の殆んどは魔界との戦いで死んだ奴等だ。回収されれば、高級勢力の指導の元、また生まれ変わって魔界と戦う事になる。こいつらはそれはもう嫌なのさ。それでこんな所を文字通りさ迷ってる。そんな魂の抜けた様な奴等は魔界にとっては好都合なんで、魔界もコイツらを狙って来るんだ」
「魔界に捕まったらどうなる訳?」
「手下にされて、消耗品さ」
「消耗されて、その後は?」
「捨てられる。だが、高級勢力は寛大なんでね。魔界に捨てられた魂を回収しようと努めてる」
「そう……」
銀嶺はホッと胸を撫で下ろした。キリンの顔が頭を過った。あの子はまだ幸せな方なんだわ……。遅れた地球とはいえ、すぐに転生出来るんですもの。
「ありがとう、グリン。もう良いわ」
「良し、じゃあアズーリ空域へ向かうぜ」
「ええ。そうして」
グリンは再び航路を航行システムにセットし直した。レジーナはゆっくりとマージナルを離れてゆく。銀嶺は窓から亡霊達の列を眺めた。
「高級勢力に回収された方が身のためよ……絶対」
聞こえないとは分かっていたが、外の亡霊達に向かってそう囁いた。
「俺は半年前に惑星タキマに居たんだが、そこでとある冒険者に会ってな。そいつが言うには、エデンはアズーリ空域にあったそうだ。それから半年経ったから、今では移動しているだろうが、その空域を基点に探せば見つかるんじゃないか?」
「私が昨日調べたのは無意味だった訳ね……」
「まあそう言うな。小型宇宙船を一隻借りたんだ。一緒にエデンを探しに行こうぜ」
「良いわよ。いつ行くの?」
「明日からさ。明日の朝、エアポートへ来てくれ。武蔵も連れてな」
「分かったわ」
翌朝、銀嶺はエアポートへ向かった。早朝のエアポートには人影は疎らで、離陸を待つ宇宙船が所狭しと並んでいる。その中に小さなレモンイエローの流線型の宇宙船が停泊していた。
「あれね」
銀嶺はそう呟くと、カートで宇宙船まで乗り付けた。
「よう、来たな!」
タラップにグリンが顔を出す。
「レジーナ号だ。乗れよ。武蔵もな」
銀嶺はタラップを登ると、中を見回した。前向きにシートが四つ並んでいる。随分と小ぢんまりした船内だが、乗員はグリンと武蔵と銀嶺だけなのだ。これで十分である。
「座ったか? じゃあ出発するぜ」
グリンはそう言うと、コクピットヘ向かった。
「アズーリ空域まで一気に行くぞ」
グリンはエンジンを立ち上げて操縦管を握る。レジーナ号は音もなく浮かび上がった。
「アズーリ空域まではどの位かしら?」
「そうだな、丸二日だな」
「二日……」
「暇なら、そこに雑誌を持ってきたから、それでも読んでると良い」
銀嶺は背もたれに付いているカバーに入った雑誌を取り出した。
『宇宙の神秘』
そうタイトルが付いていた。銀嶺はパラパラとページを捲る。途中、全面フルカラーの見開きを見付けて手を止めた。ページには、真っ暗な宇宙空間にまるで亡霊の様に人の姿をした透明な何かが並んで浮かんでいた。
「何かしら……これ」
銀嶺は次のページに書かれた説明文を読んだ。宇宙の何処かには、死んで宇宙空間をさ迷う亡霊達の隊列に出くわす所があるという。そこはマージナルと呼ばれている。そして、その亡霊達を回収する部隊もいるらしいのだが、魔界もその亡霊の魂を狙っており、時に高級勢力側と魂の争奪戦になるらしい。
「こんな所もあるのね……ねえ、グリン! マージナルって、何処にあるか知ってる?」
「ああ、確か、カラン空域の畔だ。魔界との境界地域だな」
「見てみたいわ」
「良いが、危険だぞ。あそこは時々魔界が出没するからな」
「剣を持ってきたわよ?」
「俺だって火炎放射器があるがな。まあ良い。様子を見て、大丈夫そうなら行ってみるか。予定変更だ。マージナルへ向かうぞ」
それから三日かけて、レジーナ号はマージナルへ到着した。グリンはしばらく近くの惑星の影に隠れて様子を窺ったが、魔界の姿はなかった。
「大丈夫そうだな」
グリンは惑星を離れてマージナルへ突入する。真っ暗な空間に、ぼんやりと白く光る一本の筋が見えた。筋はユラユラと揺らめきながら、ゆっくりと進んでいた。
「あれね……近くで良く見たいわ」
グリンは宇宙船を筋に近付けた。筋は大勢の人が列をなして出来た物だった。グリンは人の顔が分かる位近くまで接近した。亡霊達は虚ろな表情をして、ぐったり力の抜けた身体でさ迷っていた。何処へ行くでもなく宇宙空間を彷徨くその脱け殻の様な姿を見て、銀嶺は軽く身震いした。
「でも、回収部隊が居るのよね?」
銀嶺は自分を落ち着かせるように呟いた。
「ああ。だが、ここに居る奴等は回収されるのを嫌がる事があるんだ」
「そうなの!? 何故かしら?」
「この亡霊達の殆んどは魔界との戦いで死んだ奴等だ。回収されれば、高級勢力の指導の元、また生まれ変わって魔界と戦う事になる。こいつらはそれはもう嫌なのさ。それでこんな所を文字通りさ迷ってる。そんな魂の抜けた様な奴等は魔界にとっては好都合なんで、魔界もコイツらを狙って来るんだ」
「魔界に捕まったらどうなる訳?」
「手下にされて、消耗品さ」
「消耗されて、その後は?」
「捨てられる。だが、高級勢力は寛大なんでね。魔界に捨てられた魂を回収しようと努めてる」
「そう……」
銀嶺はホッと胸を撫で下ろした。キリンの顔が頭を過った。あの子はまだ幸せな方なんだわ……。遅れた地球とはいえ、すぐに転生出来るんですもの。
「ありがとう、グリン。もう良いわ」
「良し、じゃあアズーリ空域へ向かうぜ」
「ええ。そうして」
グリンは再び航路を航行システムにセットし直した。レジーナはゆっくりとマージナルを離れてゆく。銀嶺は窓から亡霊達の列を眺めた。
「高級勢力に回収された方が身のためよ……絶対」
聞こえないとは分かっていたが、外の亡霊達に向かってそう囁いた。