エデンを目指して
下町
次の日は下町を散策してみることにした。黄色いバスに揺られて、銀嶺は中心街から離れた所にある商店街に到着した。小ぢんまりとした店が連なる通りを歩いていると、銀嶺は自分が小さな子供に戻った様な気がした。真善美のエネルギーに満ちた高級勢力の圏内であるここでは、ぼったくられたり、強盗に会ったり、誘拐されたりする心配をしなくて良いのだ。思う存分、子供の様な好奇心で楽しめば良いのだ。
スキップしながら進んで行くと、『真実の炎』と書かれた店を見つけた。銀嶺は中へ入ってみた。
「いらっしゃいませ」
小柄なしわしわの、白髪頭に毛糸の帽子を被った老人が挨拶した。店主らしい。
「今日は。あのぅ、『真実の炎』って何ですか?」
「ああ、あんた地球人だね。空間には火のエネルギーが満ちているのさ。それを集めたんだよ」
「火のエネルギー、ですか?」
「そうだよ。魔界を撃退して浄化するのには火が一番良いのさ」
「ああ、地球でもそういうの有りますよ。護摩焚《ごまだ》きとか」
「だろうね。どうかね、一服浴びてみるかね? 」
店主は小さな火炎放射器を取り出した。そして何やら念じると、放射器から青白い炎が吹き出した。それで銀嶺を頭の天辺から足の爪先まで炙る。熱いエネルギーが銀嶺の身体を駆け巡った。とても気持ちが良い。
「どうかね?」
「凄くスッキリします」
「そうだろう? まあ、ワシが集められる炎は少しなんだがね。ウォーカーにはもっと大きな火を集められる奴も居る。それで魔界と戦うのさ」
「そうなの。有り難う。為になったわ」
「おう、また何時でもおいで」
銀嶺は店を出た。部屋に戻った銀嶺は、ここ数日の楽しい記憶を反芻していた。カイラスで楽しんでいるだけで、アストラルエネルギーがどんどん上昇しているのが分かる。そして、ある思いが頭を過った。
こんなにパワフルで、美しいエネルギーに溢れた素晴らしい体験が無料で楽しめるんだから、カイラスはまさに夢の街ね、魔界の支配を受けないということは、こんなにも素晴らしい事なんだわ。それに引き換え地球は……。お金の奴隷にならなくちゃいけない人は沢山居るし、戦争も犯罪も後を絶たないわ。高級勢力が守ってくれないのかしら? 睡蓮さん!
「銀嶺さん。どうかしましたか?」
「カイラスは素晴らしいエネルギーに満ちているわ。でも、高級勢力にこれだけの力があるのなら、地球を何とかして貰えないのかしら?」
「私達は勿論地球のことも見守っています。けれども、先ずは地球人自身が自らの意思で真善美の道を行く、と決意しなければ私達は干渉できません。残念ながら大半の地球人の意識レベルはまだ低いのです。そこに魔界は付け込んでいます。ですが、魔界の勢力が弱まれば、目覚める地球人も増えることでしょう」
「成る程ね、じゃあやっぱり、頑張るしか無いんだわ。地球人のためにも」
銀嶺は窓から外を眺めた。遠くに雪を頂いた山脈が見えた。太陽の光を受けて、雪が白銀に輝いていた。
二週後、白檀から通信があった。
「銀嶺さん、今日の午後からこれから銀嶺さんと行動を共にする仲間の戦士達に紹介しますよ。支度していて下さいね」
「分かりました。その、戦士達っていうのは?」
「会えば分かります」
「私なんかを仲間として認めてくれるかしら?」
「大丈夫ですよ」
そう言って通信は切れた。
「戦士かあ……」
銀嶺はベッドに寝転んだまま、未だ見ぬ戦士の姿を想像した。魔界と戦うのだ、さぞかし皆屈強な戦士なのに違いない。私を仲間として認めてくれるかしら? 一抹の不安を抱えながら銀嶺はリビングへ行き、窓の外を眺めた。相変わらず遠くの山が雪を戴いて朝日に輝いている。銀嶺――まさしく私の名前の通りの山。銀嶺は輝く山を見て、勇気を奮い起こした。あの美しい山と同じ様に、私は心強く美しく生きてゆけば良いわ。美はアストラルエネルギーを上げるのですもの。屈強なだけが戦士では無い筈だわ……でなければ私が選ばれる筈が無いわ。
銀嶺は薔薇の香りを嗅ぐと、新しい経験に胸を踊らせた。仲間と上手くやっていけるかは不安だが、ここで考えていても仕方がない。それに……地球での記憶が甦った。私を襲ったあの男……睡蓮さんの話しによれば、彼もまた魔界の被害者だ。私や子供達に恨みがあった訳でも無いのに……やはり、あんな理不尽な事をそのままにしておいて良い訳が無い。父さんや母さんはどう思うかしら? あの世で私が魔界と戦う戦士に選ばれたなんて知ったら驚くわね……。でも、死んでからもこんな風に人生が続くと知っていれば
「死もそう恐れる物でも無いのだわ……」
銀嶺はそう呟くと着替えを始めた。
スキップしながら進んで行くと、『真実の炎』と書かれた店を見つけた。銀嶺は中へ入ってみた。
「いらっしゃいませ」
小柄なしわしわの、白髪頭に毛糸の帽子を被った老人が挨拶した。店主らしい。
「今日は。あのぅ、『真実の炎』って何ですか?」
「ああ、あんた地球人だね。空間には火のエネルギーが満ちているのさ。それを集めたんだよ」
「火のエネルギー、ですか?」
「そうだよ。魔界を撃退して浄化するのには火が一番良いのさ」
「ああ、地球でもそういうの有りますよ。護摩焚《ごまだ》きとか」
「だろうね。どうかね、一服浴びてみるかね? 」
店主は小さな火炎放射器を取り出した。そして何やら念じると、放射器から青白い炎が吹き出した。それで銀嶺を頭の天辺から足の爪先まで炙る。熱いエネルギーが銀嶺の身体を駆け巡った。とても気持ちが良い。
「どうかね?」
「凄くスッキリします」
「そうだろう? まあ、ワシが集められる炎は少しなんだがね。ウォーカーにはもっと大きな火を集められる奴も居る。それで魔界と戦うのさ」
「そうなの。有り難う。為になったわ」
「おう、また何時でもおいで」
銀嶺は店を出た。部屋に戻った銀嶺は、ここ数日の楽しい記憶を反芻していた。カイラスで楽しんでいるだけで、アストラルエネルギーがどんどん上昇しているのが分かる。そして、ある思いが頭を過った。
こんなにパワフルで、美しいエネルギーに溢れた素晴らしい体験が無料で楽しめるんだから、カイラスはまさに夢の街ね、魔界の支配を受けないということは、こんなにも素晴らしい事なんだわ。それに引き換え地球は……。お金の奴隷にならなくちゃいけない人は沢山居るし、戦争も犯罪も後を絶たないわ。高級勢力が守ってくれないのかしら? 睡蓮さん!
「銀嶺さん。どうかしましたか?」
「カイラスは素晴らしいエネルギーに満ちているわ。でも、高級勢力にこれだけの力があるのなら、地球を何とかして貰えないのかしら?」
「私達は勿論地球のことも見守っています。けれども、先ずは地球人自身が自らの意思で真善美の道を行く、と決意しなければ私達は干渉できません。残念ながら大半の地球人の意識レベルはまだ低いのです。そこに魔界は付け込んでいます。ですが、魔界の勢力が弱まれば、目覚める地球人も増えることでしょう」
「成る程ね、じゃあやっぱり、頑張るしか無いんだわ。地球人のためにも」
銀嶺は窓から外を眺めた。遠くに雪を頂いた山脈が見えた。太陽の光を受けて、雪が白銀に輝いていた。
二週後、白檀から通信があった。
「銀嶺さん、今日の午後からこれから銀嶺さんと行動を共にする仲間の戦士達に紹介しますよ。支度していて下さいね」
「分かりました。その、戦士達っていうのは?」
「会えば分かります」
「私なんかを仲間として認めてくれるかしら?」
「大丈夫ですよ」
そう言って通信は切れた。
「戦士かあ……」
銀嶺はベッドに寝転んだまま、未だ見ぬ戦士の姿を想像した。魔界と戦うのだ、さぞかし皆屈強な戦士なのに違いない。私を仲間として認めてくれるかしら? 一抹の不安を抱えながら銀嶺はリビングへ行き、窓の外を眺めた。相変わらず遠くの山が雪を戴いて朝日に輝いている。銀嶺――まさしく私の名前の通りの山。銀嶺は輝く山を見て、勇気を奮い起こした。あの美しい山と同じ様に、私は心強く美しく生きてゆけば良いわ。美はアストラルエネルギーを上げるのですもの。屈強なだけが戦士では無い筈だわ……でなければ私が選ばれる筈が無いわ。
銀嶺は薔薇の香りを嗅ぐと、新しい経験に胸を踊らせた。仲間と上手くやっていけるかは不安だが、ここで考えていても仕方がない。それに……地球での記憶が甦った。私を襲ったあの男……睡蓮さんの話しによれば、彼もまた魔界の被害者だ。私や子供達に恨みがあった訳でも無いのに……やはり、あんな理不尽な事をそのままにしておいて良い訳が無い。父さんや母さんはどう思うかしら? あの世で私が魔界と戦う戦士に選ばれたなんて知ったら驚くわね……。でも、死んでからもこんな風に人生が続くと知っていれば
「死もそう恐れる物でも無いのだわ……」
銀嶺はそう呟くと着替えを始めた。