エデンを目指して

惑星アグリ

 宇宙船は惑星アグリへ差しかかった。

「おい、あれを見ろ!」

タラが窓の外を指差して叫ぶ。アグリの大気圏を覆っている、高波動エネルギーフィールドに巨大なタコの化け物の様な灰色の生物が取り付いて、口から粘液を吐き出して高波動エネルギーフィールドに穴を開けようとしていた。フィールドがバチバチと火花を上げている。

「あれは何?」

銀嶺は窓に張り付いた。

「魔界の陰性エネルギーで、フィールドに穴を開けようとしているのさ」

グリンが冷静な声で答える。

「どうするの?」

「もちろん、出撃だ!」

「武蔵は?」

「今回は出番無しだ」

グリンがそう言った時である。タコの群れは二手に別れて、片方の群れが宇宙船へ向かって突進してきた。一隻の宇宙船が分かれてフィールドへ向かう。銀嶺達の乗った船ともう一隻が、主砲を打った。砲から緑色の炎が凄まじい勢いでタコの群れに命中する。炎で焼かれたタコは、塩をかけられたナメクジみたいにみるみる縮んだ。


「火に弱いわけね?」

「そうだ」

「そう言えば、下町のおじさんもそんな事言っていたわね……」

タコは縮みながら、口から小ダコを無数に吐き出した。小ダコの群れが船体に取り付く。小ダコは粘液で、船体を溶かそうとしていた。

「よし、小ダコを殺るぞ。武器を持って、後部のハッチからスペースカイトで出るんだ!」

「じゃあね、武蔵。行ってくるわ!」

皆はグリンに続いて武器庫へ入った。トニは待機である。グリンは大きな火炎放射器を、タラは巨大なハンマーを、銀嶺は剣を取って、後部のハッチへ向かう。ハッチの前には三角形のスペースカイトが並んでいた。

「これ、どうやって使うの?」

銀嶺は初めて見るスペースカイトに戸惑っていた。

「このベルトに足をいれて……脇にそれぞれペダルがあるだろう? 右がアクセルで、左がブレーキだ。旋回は体重移動でやるんだ。操縦は身体で覚えろ」

「分かったわ。でも、宇宙空間に出るのよね? このままで良いわけ? 宇宙服とか要るんじゃないの?」

「ここはアストラル宇宙だ。普通の物理次元とは違う世界だ。俺達の身体もアストラル体だ。宇宙服は必要ない」

グリンはそう説明すると、開いたハッチから飛び出していった。

「銀嶺、先に行け!」

タラが後ろから声をかける。

「分かった。行くわよ!」

銀嶺は右のペダルを踏んだ。カイトの後ろのノズルからジェットが吹き出し、銀嶺はカイトごと宇宙空間へ飛び出した。


 急に開けた空間に出た銀嶺は慌てた。ペダルを踏みすぎたため、真っ直ぐ進みすぎて、船体から離れてしまったのだ。慌てる銀嶺に、魔界の悪想念が襲いかかる。急に頭の中がグチャグチャになった気がして、銀嶺は頭を振った。何とか正気を取り戻し、右へ身体を傾けて右旋回すると、船体の脇腹が見えた。小ダコが数匹取り付いている。先に出たグリンは、船体の真上に陣取り、放射器で緑の炎を小ダコに浴びせていた。さながらゴキブリ退治の様である。銀嶺は船体の脇腹をすり抜けながら、剣で小ダコを切り裂いていった。

「やるじゃないか!」

タラが叫ぶ。

「初めてにしては上出来だ。その調子で頼む」

グリンが励ます。物の十分と経たない内に、小ダコは粗方片付いた。もう一隻の宇宙船を見ると、そちらも終わった様だった。


 小ダコが殺られた事に気付いた、フィールドに取り付いていたタコ達の一部が数匹宇宙船に向かって来た。グリンとタラはヒラリとタコをかわしたが、銀嶺の反応が遅れた。タコの長い触手が銀嶺にヒットする。

「銀嶺!」

銀嶺は隣の船までふっ飛んで、身体を船体にしたたかに打ち付けた。船のクルーが急いで銀嶺を回収する。

「大丈夫かな?」

タラが心配そうな顔でグリンを見る。

「……分からん」

船は一斉にタコに向かって主砲を打ち、タコは殲滅した。残るはフィールドに残った奴等だけである。とうとうフィールドに小さな穴が開いた。魔界の陰性精神波がアグリに流れ込む。

「不味いぞ! 皆で殺るんだ!」

グリンはそう言って船内へ戻った。タラも後に続く。


 二隻の宇宙船は大急ぎでフィールドのタコと応戦している宇宙船の元へ駆け付けた。三隻で一斉に炎を浴びせると、タコ達は全滅した。開いていた穴が元に戻ってゆく。

「銀嶺は大丈夫かな?」

グリンはそう言って、銀嶺に向けて念を飛ばした。すぐに返事が来た。

「大丈夫……と言いたいところなんだけど、脇腹をやられたわ。船医の話ではアストラル体が損傷しているそうよ」

「そうなのか……取り敢えず無事で良かった。幸い、アグリは農業惑星だ。ここに降りて、新鮮な野菜を食べればアストラル体も修復出来るぞ」

「ええ。ドクターにもそう言われたわ。これからアグリへ降りるそうよ」

「分かった。アグリで会おう」


 二人の念話が終わると同時に、船団はアグリに降下し始めた。何処までも広がる広い草原の真ん中に作られたエアポートに着陸する。草原の向こうにはこれまた広大な畑が広がっていた。空は何処までも青く澄んでいて、そこに白い雲がポカリポカリと浮かんでいる。いかにものどかな、牧歌的な風景である。

「大勢で詰めかけても、向こうも迷惑だろうから、私とドクターだけ行ってくるわ」

銀嶺はそうグリンに念話すると、用意された水色のタクシーに乗って、管理センターへ向かった。
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