エデンを目指して
修復
管理センターへ着くと、ドクターはセンター長のミルラに事情を説明した。
「分かりましたわ。今、知らせを受けて農夫の方々が畑へ収穫に行っております。銀嶺さんは医務室のベッドで休まれて下さい。ドクターは客間でお待ち下さい」
ミルラに案内されて、銀嶺は医務室へ入った。女性の医務員がミルラと銀嶺に挨拶する。
「銀嶺さん、こちらのベッドへどうぞ」
医務員は奥のベッドへ銀嶺を促した。
「ありがとう。じゃあ、少し休ませてもらうわ」
「ええ。じきに新鮮な野菜が届きますからね」
ミルラはそう言って部屋を出ていった。
「カーテン閉めておきますね」
医務員はそう言ってベッド周りのカーテンを閉めた。
しばらく待っていると、部屋のドアがノックされた。医務員が出迎えると、中年の男と青年と、少年が立っていた。中年の男はトレイに食事を乗せている。
「奥のベッドに寝かせてます」
医務員はカーテンで仕切られた一角を指差した。
「銀嶺《ぎんれい》さん。食事を持って来てもらったから、カーテン開けますよ」
医務員はカーテンを開けた。銀嶺は白いベッドに上半身を起こし、脇腹を手で押さえて座っていた。
「あんた、地球人じゃな?」
青年が思わず声に出した。
「ええ。元はね。今はウォーカーだけど。っと痛た……」
「まあ、取り敢えず食べたら良いわ。おっと、その前に、傷口にこれを張っておきなさい」
少年が湿布を差し出した。銀嶺は服を捲《めく》ると、脇腹に付いた痛々しい傷口に湿布を張った。中年の男がベッドに設置されているテーブルを起こす。
「きゅうりの出し汁漬けに、トマトときゅうりの酢の物です」
「有り難う。頂くわ」
銀嶺は嬉しそうに出し汁漬けを食べ始めた。
「ああ、やっぱりこれよね! きゅうりのクリアーなエネルギーが体に染み渡る感じ!」
銀嶺は久しぶりに食べる食事に感激していた。
「お味の方はいかがです?」
「美味しいわ。日本に居た時を思い出すわね」
「日本人ですか?」
「ええ。日本で生きていたときは水泳のインストラクターをやっていたわ。でも、魔界に心を操られた暴漢に襲われて死んじゃってね。高級勢力の睡蓮さんに頼まれてウォーカーになったのよ」
銀嶺は話しながらパクパクきゅうりを食べた。
「タコにやられるなんて、お姉ちゃん雑魚やな」
「あら、そうねえ。私まだ新人だからね」
「でも、戦士なんて、何か格好いいですね。俺は農夫だからこんなことしか出来んで、テレビで見てたけど、何かもどかしかったですわ」
中年の男はそう言ってはにかんだ。
「魔界との闘いは何も前線で戦闘することだけじゃないわ。野菜を育ててくれる人が居るから、私もこうしてアストラル体の修復が出来るんだし。貴方は農夫を頑張って」
「は、はい!」
銀嶺はあっという間に二品を平らげた。
「有り難う。美味しかったわ。ところで貴方達は……?」
「は、はい。俺は涼太《ひょうた》っていいます。地球で農夫をやってるんですけど、新しい種をもらうために睡蓮さんにここに連れて来られたんです。こっちは俺の祖父の寅吉《とらきち》で……」
「お祖父ちゃん? でも、若いわ」
「え、ええ。祖父ちゃんはここで農夫を続けるんで、若い姿に戻っているんです。それでこっちが…」
「淳《あつし》だよ」
「淳君か。湿布有り難う。効いたわ」
それから四人は日本に居たときの話で盛り上がった。
「……俺、地球に戻ったら、銀嶺さんの御両親に、ウォーカーになった事、伝えた方が良いですかね?」
涼太は神妙な顔をして訊いた。
「そうねえ。そうしてもらえれば父さん達も悲しむこともないかも知れないわね。でも、信じるか分からないし、それは貴方にお任せするわ」
「そうですか……分かりましたわ」
「まあ、それはともかく、しばらくワシらが野菜を運んで来るんで、あんたは沢山食べてアストラル体を修復したらええ」
「そうね」
「治ったらどうするんです?」
「さあ、それは私もまだ分からないわ。ちょっと待ってね……」
銀嶺はそう言うとグリンに念話を送る。
「グリン、この後はどうするの?」
「辺境惑星ハザールへ行く。あそこは結構前に魔界に侵入されて、応援を待っているんだ」
「そう」
「仲間に訊いてみたわ。この後は惑星ハザールに応援に行くそうよ」
「ハザールって何処です? 遠いんですか?」
涼太が心配そうに訊いた。
「辺境って言ってたから、遠いんでしょうね。大丈夫よ、独りじゃ無いから」
「そうだろうね。よし、疲れるといけんから、ワシらはこれで失礼するよ」
寅吉はそう言うと、空になった食器を持ってドアへ向かった。
「それじゃ、銀嶺さん。また来ます」
「またな、お姉ちゃん」
三人は静かに部屋を出ていった。
それから三日間、銀嶺は涼太達の運んできた料理を食べてすっかり回復した。
「皆さん、今まで有り難うございました。お陰でアストラル体も修復しました。これから、また戦いに行きます!」
ホールで皆を前に銀嶺はそう演説すると、ドクターと一緒にタクシーに乗ってエアポートへ向かった。
「分かりましたわ。今、知らせを受けて農夫の方々が畑へ収穫に行っております。銀嶺さんは医務室のベッドで休まれて下さい。ドクターは客間でお待ち下さい」
ミルラに案内されて、銀嶺は医務室へ入った。女性の医務員がミルラと銀嶺に挨拶する。
「銀嶺さん、こちらのベッドへどうぞ」
医務員は奥のベッドへ銀嶺を促した。
「ありがとう。じゃあ、少し休ませてもらうわ」
「ええ。じきに新鮮な野菜が届きますからね」
ミルラはそう言って部屋を出ていった。
「カーテン閉めておきますね」
医務員はそう言ってベッド周りのカーテンを閉めた。
しばらく待っていると、部屋のドアがノックされた。医務員が出迎えると、中年の男と青年と、少年が立っていた。中年の男はトレイに食事を乗せている。
「奥のベッドに寝かせてます」
医務員はカーテンで仕切られた一角を指差した。
「銀嶺《ぎんれい》さん。食事を持って来てもらったから、カーテン開けますよ」
医務員はカーテンを開けた。銀嶺は白いベッドに上半身を起こし、脇腹を手で押さえて座っていた。
「あんた、地球人じゃな?」
青年が思わず声に出した。
「ええ。元はね。今はウォーカーだけど。っと痛た……」
「まあ、取り敢えず食べたら良いわ。おっと、その前に、傷口にこれを張っておきなさい」
少年が湿布を差し出した。銀嶺は服を捲《めく》ると、脇腹に付いた痛々しい傷口に湿布を張った。中年の男がベッドに設置されているテーブルを起こす。
「きゅうりの出し汁漬けに、トマトときゅうりの酢の物です」
「有り難う。頂くわ」
銀嶺は嬉しそうに出し汁漬けを食べ始めた。
「ああ、やっぱりこれよね! きゅうりのクリアーなエネルギーが体に染み渡る感じ!」
銀嶺は久しぶりに食べる食事に感激していた。
「お味の方はいかがです?」
「美味しいわ。日本に居た時を思い出すわね」
「日本人ですか?」
「ええ。日本で生きていたときは水泳のインストラクターをやっていたわ。でも、魔界に心を操られた暴漢に襲われて死んじゃってね。高級勢力の睡蓮さんに頼まれてウォーカーになったのよ」
銀嶺は話しながらパクパクきゅうりを食べた。
「タコにやられるなんて、お姉ちゃん雑魚やな」
「あら、そうねえ。私まだ新人だからね」
「でも、戦士なんて、何か格好いいですね。俺は農夫だからこんなことしか出来んで、テレビで見てたけど、何かもどかしかったですわ」
中年の男はそう言ってはにかんだ。
「魔界との闘いは何も前線で戦闘することだけじゃないわ。野菜を育ててくれる人が居るから、私もこうしてアストラル体の修復が出来るんだし。貴方は農夫を頑張って」
「は、はい!」
銀嶺はあっという間に二品を平らげた。
「有り難う。美味しかったわ。ところで貴方達は……?」
「は、はい。俺は涼太《ひょうた》っていいます。地球で農夫をやってるんですけど、新しい種をもらうために睡蓮さんにここに連れて来られたんです。こっちは俺の祖父の寅吉《とらきち》で……」
「お祖父ちゃん? でも、若いわ」
「え、ええ。祖父ちゃんはここで農夫を続けるんで、若い姿に戻っているんです。それでこっちが…」
「淳《あつし》だよ」
「淳君か。湿布有り難う。効いたわ」
それから四人は日本に居たときの話で盛り上がった。
「……俺、地球に戻ったら、銀嶺さんの御両親に、ウォーカーになった事、伝えた方が良いですかね?」
涼太は神妙な顔をして訊いた。
「そうねえ。そうしてもらえれば父さん達も悲しむこともないかも知れないわね。でも、信じるか分からないし、それは貴方にお任せするわ」
「そうですか……分かりましたわ」
「まあ、それはともかく、しばらくワシらが野菜を運んで来るんで、あんたは沢山食べてアストラル体を修復したらええ」
「そうね」
「治ったらどうするんです?」
「さあ、それは私もまだ分からないわ。ちょっと待ってね……」
銀嶺はそう言うとグリンに念話を送る。
「グリン、この後はどうするの?」
「辺境惑星ハザールへ行く。あそこは結構前に魔界に侵入されて、応援を待っているんだ」
「そう」
「仲間に訊いてみたわ。この後は惑星ハザールに応援に行くそうよ」
「ハザールって何処です? 遠いんですか?」
涼太が心配そうに訊いた。
「辺境って言ってたから、遠いんでしょうね。大丈夫よ、独りじゃ無いから」
「そうだろうね。よし、疲れるといけんから、ワシらはこれで失礼するよ」
寅吉はそう言うと、空になった食器を持ってドアへ向かった。
「それじゃ、銀嶺さん。また来ます」
「またな、お姉ちゃん」
三人は静かに部屋を出ていった。
それから三日間、銀嶺は涼太達の運んできた料理を食べてすっかり回復した。
「皆さん、今まで有り難うございました。お陰でアストラル体も修復しました。これから、また戦いに行きます!」
ホールで皆を前に銀嶺はそう演説すると、ドクターと一緒にタクシーに乗ってエアポートへ向かった。