エデンを目指して
バザールへ
宇宙船に乗り込んだ銀嶺を、グリンと武蔵が出迎えた。飛び付く武蔵を銀嶺が抱っこする。
「よう、もう良いのか?」
グリンが肩を叩いた。
「ええ。大丈夫よ。待たせちゃったわね」
「まあ、それは仕方がないさ」
銀嶺を収容すると、宇宙船はすぐに飛び立った。
「ハザールってどんな星なの?」
「惑星全体が砂漠だそうだ。点在するオアシスの畔に集落を作って、細々と住民が暮らしているらしい」
「砂漠……」
「まあ、俺は砂漠出身だから、驚きゃしないがな。だが、高波動エネルギーフィールドは、住民の発するアストラルエネルギーにある程度比例するんで、住人の少ない惑星は魔界の餌食になりやすいのさ」
「バリヤーが薄いっていう訳ね」
「そうだ。もちろん、高級勢力がエネルギーを補強しているし、ハザールには聖歌隊が居て、フィールドの強化に努めているがな」
「聖歌隊?」
「知らんのか?」
「いえ……地球にも聖歌隊は居たわ。でもそれがフィールドの強化になるとは知らなかったわ」
「聖なる祈りの声も、アストラルエネルギーを上げるのさ」
「じゃあ、教会で子供達が聖歌を歌っていたのも、無意味ではないのね」
「そういう事だな。よし、ハザールまでは丸五日かかる。焦っても始まらん。昼寝でもしようぜ」
グリンはそう言うと、個室へ引き上げて行った。
五日後、宇宙船はハザールの上空に居た。惑星全体がオレンジ色に輝いている。まさに砂の惑星であった。高波動エネルギーフィールドに大穴が開いているのが見えた。
「見事に開いてるな。修復が間に合わんのだな」
「どうするの?」
「まあ、フィールドの修復は俺達の仕事じゃない。俺達はこのまま降下して、魔界の小隊が居座っている巣の近くに陣を張る。そこから小隊を殲滅して行くんだ」
グリンが説明している間にも、宇宙船はぐんぐん降下していった。
「この宇宙船もエネルギーフィールドで守られているから、今は大丈夫だが、外へ出ると魔界の悪想念に曝《さら》されるぞ。今回はタコの時より相手の総数は多いんだ。覚悟しておけよ」
「悪想念……」
銀嶺は身震いして窓の外を見た。前回は慣れていなかったせいもあり、魔界の陰性エネルギー波で頭がクラクラしたのだった。今回はあれより酷いのか……眼下に黄褐色の岩盤質の大地がみえた。巨大な岩山が弧を描くように並んでいる。
「よし、あそこの岩場の陰に着陸しろ」
グリンがパイロットに念話を送る。宇宙船は三隻とも、岩で出来た弧の内側に着陸した。
「よし、到着だな。パイロット、何か情報はあるか?」
「ハザールの中央司令部より連絡ありました。魔界勢力はこの先数キロ先の岩場に陣取っているようです。それを殲滅せよ、との事です」
「了解。よし、取り敢えず外に出てみよう。一応、武器を携帯してな」
四人は船外へ出た。何処までも続く黄褐色の大地、所々に点在する岩山……まさしく不毛の大地である。上を見上げると、今まで見てきたどの空よりも青い。そこに筋状の雲がうっすら糸を引いていた。魔界の侵入によって、四人の頭は少しクラクラしたが、気を強く保てば大丈夫そうである。戦場であるというのに、見渡す限り風景は美しかった。
「よう、グリン。いよいよだな」
隣の船から降りてきた男が声をかけてきた。褐色の肌に長い黒髪を後ろで三つ編みにした、薄茶色の瞳の男だった。
「バルタか。相変わらず元気そうだな」
「おう。その娘かい? 新人てのは?」
「銀嶺だよ。剣士だ」
「ふーん」
バルタは銀嶺を頭の天辺から足の爪先まで、ジロジロ眺めた。銀嶺は居心地の悪さを感じて、見悶える。
「役に立つのかね? こんなお嬢さんが」
……やっぱり。そう言われると思ったわ。銀嶺が俯いていると、
「まあそう言うな。お前さんだって新人の頃は大した事は出来なかったろう?」
グリンが助け船を出した。
「ふん、まあ良いさ、これからじっくりお手並み拝見としよう」
そう言って、バルタは薄ら笑いを浮かべた。
「それより、作戦はどうなんだ?」
「それだがな、これから俺とお前、それからもう一隻の船のキャプテンと作戦会議を開く。俺の船に来てくれ」
「分かった」
グリンはそう言うと、バルタの船のタラップを登った。
後に残された三人は顔を見合わせた。
「気にするな、銀嶺。あのバルタってのは昔からああいう奴さ。強いから誰も文句を言わないだけで」
トニが銀嶺の背中を叩く。
「ええ。大丈夫よ。それに、あの人の言う事も、半分位は当たっていると思うし」
「そう?」
「だって私は、まだ実績がほとんどないのだもの。ああ言われても仕方がないわ」
「実績なら、ここでこれから積めるさ」
タラが斧を振り回す。
「ところで、この頭に響く嫌な感じ、何とかならないのかしら?」
「魔界の精神波だな。どうしてみようもないね。気を強く持って、夜には火を浴びるんだな」
「グリンの火炎放射器?」
「そうさ。アイツは空間の火を集められるんだ。ウォーカーとしては第一級さ」
「そうなのね」
「ここに居ても暑いだけだ、中で待とうぜ」
三人は宇宙船へ引き上げた。
「よう、もう良いのか?」
グリンが肩を叩いた。
「ええ。大丈夫よ。待たせちゃったわね」
「まあ、それは仕方がないさ」
銀嶺を収容すると、宇宙船はすぐに飛び立った。
「ハザールってどんな星なの?」
「惑星全体が砂漠だそうだ。点在するオアシスの畔に集落を作って、細々と住民が暮らしているらしい」
「砂漠……」
「まあ、俺は砂漠出身だから、驚きゃしないがな。だが、高波動エネルギーフィールドは、住民の発するアストラルエネルギーにある程度比例するんで、住人の少ない惑星は魔界の餌食になりやすいのさ」
「バリヤーが薄いっていう訳ね」
「そうだ。もちろん、高級勢力がエネルギーを補強しているし、ハザールには聖歌隊が居て、フィールドの強化に努めているがな」
「聖歌隊?」
「知らんのか?」
「いえ……地球にも聖歌隊は居たわ。でもそれがフィールドの強化になるとは知らなかったわ」
「聖なる祈りの声も、アストラルエネルギーを上げるのさ」
「じゃあ、教会で子供達が聖歌を歌っていたのも、無意味ではないのね」
「そういう事だな。よし、ハザールまでは丸五日かかる。焦っても始まらん。昼寝でもしようぜ」
グリンはそう言うと、個室へ引き上げて行った。
五日後、宇宙船はハザールの上空に居た。惑星全体がオレンジ色に輝いている。まさに砂の惑星であった。高波動エネルギーフィールドに大穴が開いているのが見えた。
「見事に開いてるな。修復が間に合わんのだな」
「どうするの?」
「まあ、フィールドの修復は俺達の仕事じゃない。俺達はこのまま降下して、魔界の小隊が居座っている巣の近くに陣を張る。そこから小隊を殲滅して行くんだ」
グリンが説明している間にも、宇宙船はぐんぐん降下していった。
「この宇宙船もエネルギーフィールドで守られているから、今は大丈夫だが、外へ出ると魔界の悪想念に曝《さら》されるぞ。今回はタコの時より相手の総数は多いんだ。覚悟しておけよ」
「悪想念……」
銀嶺は身震いして窓の外を見た。前回は慣れていなかったせいもあり、魔界の陰性エネルギー波で頭がクラクラしたのだった。今回はあれより酷いのか……眼下に黄褐色の岩盤質の大地がみえた。巨大な岩山が弧を描くように並んでいる。
「よし、あそこの岩場の陰に着陸しろ」
グリンがパイロットに念話を送る。宇宙船は三隻とも、岩で出来た弧の内側に着陸した。
「よし、到着だな。パイロット、何か情報はあるか?」
「ハザールの中央司令部より連絡ありました。魔界勢力はこの先数キロ先の岩場に陣取っているようです。それを殲滅せよ、との事です」
「了解。よし、取り敢えず外に出てみよう。一応、武器を携帯してな」
四人は船外へ出た。何処までも続く黄褐色の大地、所々に点在する岩山……まさしく不毛の大地である。上を見上げると、今まで見てきたどの空よりも青い。そこに筋状の雲がうっすら糸を引いていた。魔界の侵入によって、四人の頭は少しクラクラしたが、気を強く保てば大丈夫そうである。戦場であるというのに、見渡す限り風景は美しかった。
「よう、グリン。いよいよだな」
隣の船から降りてきた男が声をかけてきた。褐色の肌に長い黒髪を後ろで三つ編みにした、薄茶色の瞳の男だった。
「バルタか。相変わらず元気そうだな」
「おう。その娘かい? 新人てのは?」
「銀嶺だよ。剣士だ」
「ふーん」
バルタは銀嶺を頭の天辺から足の爪先まで、ジロジロ眺めた。銀嶺は居心地の悪さを感じて、見悶える。
「役に立つのかね? こんなお嬢さんが」
……やっぱり。そう言われると思ったわ。銀嶺が俯いていると、
「まあそう言うな。お前さんだって新人の頃は大した事は出来なかったろう?」
グリンが助け船を出した。
「ふん、まあ良いさ、これからじっくりお手並み拝見としよう」
そう言って、バルタは薄ら笑いを浮かべた。
「それより、作戦はどうなんだ?」
「それだがな、これから俺とお前、それからもう一隻の船のキャプテンと作戦会議を開く。俺の船に来てくれ」
「分かった」
グリンはそう言うと、バルタの船のタラップを登った。
後に残された三人は顔を見合わせた。
「気にするな、銀嶺。あのバルタってのは昔からああいう奴さ。強いから誰も文句を言わないだけで」
トニが銀嶺の背中を叩く。
「ええ。大丈夫よ。それに、あの人の言う事も、半分位は当たっていると思うし」
「そう?」
「だって私は、まだ実績がほとんどないのだもの。ああ言われても仕方がないわ」
「実績なら、ここでこれから積めるさ」
タラが斧を振り回す。
「ところで、この頭に響く嫌な感じ、何とかならないのかしら?」
「魔界の精神波だな。どうしてみようもないね。気を強く持って、夜には火を浴びるんだな」
「グリンの火炎放射器?」
「そうさ。アイツは空間の火を集められるんだ。ウォーカーとしては第一級さ」
「そうなのね」
「ここに居ても暑いだけだ、中で待とうぜ」
三人は宇宙船へ引き上げた。