契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 本当は渚だって父親のもとで働くなんて嫌だった。自分の好きな仕事をして、自分の力で生きていきたい。
 でも元裁判官の厳格な父が、それを許してくれないのだ。
 もちろん渚だって成人した大人なのだから、必ずしも父親の言う通りにしなければならないわけではない。
 それでも……。

「パパの事務所でしか働けないお嬢様なのよねー。あーあ、瀬名先生がいなければ、こんな事務所辞めてやるのに」

 ぶつくさ言いながら愛美たちがトイレから出てくるような気配がして、渚はハッとする。
 このままでは鉢合わせしてしまう。
 でも慌ててその場を離れようとして、いったいどうすればいいのかわからなくなってしまった。
 トイレから事務室までは一直線の少し長い廊下で、今から引き返したのでは絶対に間に合わないからだ。
 冷静になって考えれば、今顔を合わせて気まずい思いをするべきなのは彼女たちの方だ。陰口を叩いていたところを本人に聞かれてしまったのだから。
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