契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「和臣だ。……渚」

 渚は目を見開いて、いつもより遥かに近い距離にある、瀬名のきれいな瞳を見つめる。
 鼓動が痛いくらいに速く打って、混乱する頭の中でガンガンと響く。今すぐに逃げ出したいくらいなのに、真っ直ぐな瀬名の視線に、縛りつけられたように動けなかった。
 渚はこくんと喉を鳴らして、ゆっくりと口を開いた。

「か、和臣…さん?」

「よろしい」

 瀬名が満足そうに微笑んだ。

「じゃあ俺は、部屋で着替えてくるよ」

 渚はすっかり動揺してしまったというのに、瀬名の方は憎らしいくらいに平然として、踵を返す。
 寝室へと向かうその背中に、渚は思わず呼びかけた。

「あの……」

 瀬名が振り返って、眉を上げる。

「あの……」
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