契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 だが渚は言い淀み、なにも言えなかった。
 本当は、さっき渚が見たものは嘘だったと言って欲しかった。君などには興味はないから安心するように、と。
 だがそんな渚の期待を裏切るかのように瀬名が薄く笑う。そのお世話にも紳士的とは言い難い微笑みに、渚の胸はどきんとあやしい音を立てた。
 瀬名が思い出したように口を開いた。

「そういえば君は」

「え?」

「君はあしながおじさんのストーリーを知らないのか」

 少し唐突とも思えるその問いかけに、渚は反射的に答える。

「え、知ってますよ」

『あしながおじさん』は、孤児院にいる主人公にお金持ちのおじさんが援助をしてくれる話だ。
 主人公はいつかおじさんに会えることを夢見てたくさんの手紙を書く。おじさんは主人公になんの見返りもなく……。
 でもそこまで考えを巡らせて、渚ははたと思い当たる。そういえばあの話、最後どうなったっけ?
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