契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 それでも明日からの勤務を考えるとやっぱり鉢合わせはしたくないと渚は思う。その渚の目に、もう一方の廊下が目に入った。
 弁護士の個室へ続く廊下だ。
 こちらは角になっていて、曲がれば姿を見られることはない。考えるより先に渚はそちらへ駆け出した。

「私は真面目に仕事をしてますっていう空気もなんだか許せないのよねー」

 角を曲がった瞬間にトイレのドアが開いた気配がして愛美たちが出てくる。
 間一髪、間に合った。
 だがそう思ってホッと息を吐いた渚はすぐ目の前に人がいるのに気がついて思わず声をあげそうになってしまう。

「⁉︎……」

 瀬名だった。
 渚は叫び出しそうな自分の口を両手で塞ぎ、目を白黒させてしまう。
 瀬名の方も驚いたように口を開きかけるけれど、ビルの廊下に響く愛美たちの会話に口を閉じた。
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