契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました

　そしてそのまま揉み込むようにタコを塩で洗う。とたんにぶくぶくと泡が立ち始めた。これがタコのヌメヌメだ。

「ははっ、すごいな。それが全部取れるまでやるのか？　俺も手伝うよ」

　和臣が嬉しそう笑う。
　そして渚の返事を待たずに、腕まくりをして渚の隣で一緒にタコを洗い始めた。
　すぐ近くから感じる少し甘いような彼の香り、無邪気な笑顔に、渚の胸がまた大きく跳ねる。頬もさらに熱くなって、自分の顔がタコみたいに真っ赤になってゆくような心地がした。
　渚は慌てて＂これは普通の反応だ＂と自分自身に言い聞かせた。
　テレビでも美人アナウンサーに言われていたじゃないか、瀬名先生の笑顔は特別に素敵だと。
　その笑顔をこんなに近くで目にしたらきっと、どんな女性も自分と同じような反応をするに違いない。
　私だけじゃない、大丈夫。

「気持ち悪いけど、妙におもしろいな。なんだこれは」

　どこか無邪気にタコを洗う和臣を渚はなるべく見ないようにして、タコを洗い続けた。
　すべて洗い終えて、渚が夕食の準備に取り掛かっても、和臣はリビングへは戻らずに、料理をする渚の傍にいて茹で上がったタコの味見をしたり、ちょっとした作業を手伝ったりした。