契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「どうかした?」

 夕日を見つめたままの渚を和臣が覗き込む。
 渚はハッとして和臣を見てから、ゆっくりと首を振った。

「……なんでもありません」

 和臣が姉のところへ持っていくタッパーに視線を落として、口を開いた。

「佐々木先生のところへも、持って行ったらどうだ?」

「……え?」

「今日だけじゃなくて、普段も。少し多めに作って持って行ったらいいじゃないか。毎日事務所で会うんだから」

 まるで渚の気持ちを読んだかのような和臣の言葉に、渚は胸を突かれたような心地がする。
 父から自由になりたいと言って結婚までして家を出たくせに、いざ出てみればひとりになった父が心配だなんて、意味不明な奴だと思われても仕方がない。
 それなのに自分を見つめる和臣の綺麗な瞳にはそんな色は微塵も浮かんでいなかった。
「先生もつらいと思うよ。今まで毎日君のご飯を食べていたなら、尚更。君の作るご飯は美味しいからね」
 そう言って和臣は、ダイニングに夕食を運び始める。
< 127 / 286 >

この作品をシェア

pagetop