契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「きっとさ、私たちが先生にきゃーきゃー言ってるのも、馬鹿にしてるのよ。自分は弁護士の娘だからって。絶対にそう」

「自分が弁護士ってわけじゃないのにね~」

 コツコツとハイヒールを響かせて愛美たちは遠ざかってゆく。
 渚は胸を撫でおろした。
 とりあえず、直接対決は避けられた。でも問題は……。
 渚は目の前の男性を気まずい思いで見つめた。
 瀬名は眉を寄せて渚をジッと見つめながら、愛美たちの会話に耳を澄ませている。確実に和美たちの陰口の対象が渚だということはバレているに違いない。しかも自分がその彼女たちから逃げてきたということも。
 事務員は基本的に弁護士の個室へゆくことはあまりない。なにか用事がある時は内線でやり取りするのが普通だった。
 だから、こっち側の廊下に渚が来るということ自体が不自然なのだ。
 やがて和美たちの会話が完全に聞こえなくなったのを見計らって、瀬名が口を開いた。

「佐々木さ……」

「突然すみませんでした。お疲れさまです!」
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