契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「どうかした?」

 あらかたのものを運び終えた和臣がキッチンへやって来て渚を覗き込む。
 渚は少し慌てて、

「なんでもないです」

と首を振った。そして急に黙り込んだことを誤魔化すように適当な言葉を口にした。

「それにしても……。先生が土曜日の午後に家にいらっしゃるのすごく珍しいですよね。いつも事務所でお仕事をされてるのに……。今日は大丈夫なんですか」

 だがその何気ない言葉に、和臣が反応した。眉を寄せ、小さくため息をつくと、低い声で呟いた。

「……君はとんでもない奥さんだな」

「え?」

 "奥さん"などという今のふたりには不似合いな言葉、不機嫌を隠そうともしない視線に、渚は目をパチクリさせる。
 和臣がカウンターに手をついて、じろりと渚を睨んだ。

「君は俺が毎週土曜日の午後になにをしてるのか知らなかったのか? 仮にも結婚しているというのに、……俺にはまったく興味がないんだな」

 がらりと変わった和臣の態度に渚は一瞬驚いて、でもすぐに反論の言葉を口にした。
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