契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 渚はその瀬名を遮るように言ってぺこりと頭を下げた。
 こんなところ、見られただけでもカッコ悪いのに、それについてなにか言われるのはもっと嫌だった。
 たとえそれが、優しい言葉だったとしても。
 渚はすぐに踵を返して事務室への廊下を行きかける。だが瀬名がそれを止めた。

「待って」

 心の中でため息をついて渚は仕方なく足を止める。そしてやはり仕方なく、振り返った。

「なにか?」

 努めて冷静に問いかけると、瀬名が少し声を落とした。

「よくあることなの?」

 なんのことですか?とシラを切るのは時間の無駄だろうと渚は思う。
 この事務所にはさっき和美が言っていた"弁護士の娘"はひとりしかいない。渚はため息をついて口を開いた。

「だとしても、大丈夫です。先生に心配していただくことではありません」
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