契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 業務中と変わらない几帳面な硬い文面。
 だがその中にある"和臣さん"という文字が和臣の胸を温かくさせる。彼女の方の帰宅時間がわかるなら今日はそれに合わせて帰ろうか、そんなことまで頭に浮かんで、和臣は首を振った。

 だから彼女とはそんなことをするために結婚したのではない!

 和臣はふぅと息を吐いた。
 ……実際渚は目標に向かって、一心不乱に進んでいる。仕事と勉学を一生懸命に両立させて。
 当初和臣は、弁当屋を継ぐという渚の夢を応援するとは決めたものの、成功するかどうかは五分五分だと考えていた。
 世間はそれほど甘いものではない。
 だが一緒に住み、彼女の料理を食べるようになってからは少し考えが変わった。
 たくさんのレシピを祖母から引き継いだというのは本当のようだ。でもそれよりも、彼女の料理には気持ちがこもっていると和臣は思う。
 毎日のメニューは任せてある。彼女だって毎日忙しいのだから、無理して作らなくてもいいとも言っている。
 それでも彼女は和臣のために大抵は何かしらの物を作ってくれていた。
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