契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 本心だった。
 ここで勤務を始めてからこの四月でまる二年が経つけれど、彼女たちとの関係はずっとこんな感じだ。それはきっと渚が所長の娘だから……という理由だけではないのだろう。
 人と人には相性があって、どうしても気に食わない相手というのはいる。愛美の場合はそれが渚だっただけなのだ。そして圧倒的に女性が多い佐々木総合法律事務所の事務室でもともとボス的存在だった彼女にそう思われてしまった時点で、渚には味方はいない。
 もちろんこの事務所の頂点に立つ龍太郎の娘だから表だっていじめられるということはないが、だからといって陰口までは止められない。
 だが目の前の瀬名はそれで納得はできないようだった。

「だが……」

と呟いて、眉間にシワを寄せている。
 渚はその端正な顔を見つめながら、さすがは瀬名先生、と心の中で呟いた。
 とるにたらない事務員同士のいざこざに自ら首を突っ込もうだなんて。これが別の弁護士だったらきっと見ないフリをしただろうと渚は思う。
 もちろん音川ならなんらかの手立てをとってくれたかもしれない。
 だがそれ以外の弁護士なら……。
< 15 / 286 >

この作品をシェア

pagetop