契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
『佐々木さん、普通の人にとって弁護士に相談するというのは、とてもハードルが高いことなんだ。何日も何日も、もしかしたら何ヶ月も悩んで、ようやく決断できたという人も珍しくはない。特に飛び込みで来る方はその傾向が強いと私は思っている。だから、私は彼らが待てると言うならばできるだけその日のうちに話を聞かせてもらいたいんだ。また後日、と言って帰ってもらったらそこで気持ちが切れてしまってもう二度と来られない方は案外多いものだよ』

 まだ新人だった渚は、そんなものなのかと思っただけで、それ以後は彼の言う通りにするようになった。
 でも入所から二年経った今は、それがどれほど大切なことなのかがわかるようになっていた。
 今日来所した老夫婦は相談後は来た時とは違いどこかホッとした表情だった。そして受付にいた渚にまで深々と頭を下げて帰っていった。
 たくさんの人の悩みを聞き、たくさんの人を支え、希望になる。
 それが、弁護士瀬名和臣なのだ。
 でも……。
 渚は彼が眠るコーナーソファのオットマンに腰を下ろして、綺麗な彼の寝顔をジッと見つめた。

 では彼は、彼自身はいったい誰に支えてもらうのだろう。
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