契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 今でこそ、それほど過密スケジュールではなくなった父も若い頃は和臣と同じように激務だったように思う。
 一週間のうち一度も顔を見ないとなんてことはザラだった。
 その父を支えたのは母であり、家族だった。
 ベッドで寝ないと風邪をひくよと起こしてあげられる人は、彼にはいない。
 今この瞬間は渚はそばにいるけれど、形だけの妻だから、その資格はないだろう。
 彼には……。
 そこまで考えて、そういえばと渚は思い出した。
 彼はいったいなぜ結婚したくないのだろう。
 できるだけたくさんの人の力になりたいのなら、仕事に打ち込みたいのなら、彼を支える家族がそばにいる方がいいに決まっているのに。
 ソファに倒れ込むように眠る生活では、ベストなコンディションは保てるはずはないのだから。
 それこそ彼が望むなら喜んで彼を支えようという人はたくさんいるはずだ。
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