契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 それなのにずっと結婚しないと決めているなんて。
 いったいなぜ……。
 と、その時。
 くだらない、ありえない、本当に馬鹿げた考えが渚の頭に浮かんだ。
 もし和臣がずっと誰とも結婚をしないならば、……だったら渚がこのまま形だけの妻として彼を支えるというのではダメだろうか。
 恋愛に関して赤子にも等しい渚が、経験豊富で引く手数多な和臣の本当の妻になれるなどとは思わない。そんな大それたことは思わないけれど、それでもそばで彼を支えられるならば、それだけでいいかもしれない……。
 でもそこまで考えて、渚は

「馬鹿みたい」

と呟いて首を振った。
 そんなこと、彼が望むはずないのに。
 彼が渚に期待するのは、早く資格を取ることと、せいぜいが結婚している間だけ健康を維持するための食事を作ることくらいなのだ。渚にできることなど、それしかない。
 渚だってそれでいい、それがいいと思っているはずなのに。
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