契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 作業着とも長靴とも、さらにいえば耕運機とも今は無縁の和臣の好きなところなど、渚には思いつかないに違いない。
 でもなぜか、すぐに助けてやる気にはなれなかった。
 渚はしばらく、困ったように「あー」とか「うー」とかを繰り返してから、突然「あ!」と思い出したように声をあげた。
 そして家族が見守る中、頬を真っ赤に染めて口を開いた。

「和臣さんは、私の作った料理をいつも全部綺麗に食べてくれます。お米の粒ひとつ残さずに……。正直いって失敗しちゃったなっていう時もあるんですけど、それでも絶対に残っていません。こ、こちらにお邪魔させていただいて、その理由がわかりました。食物を作る方の気持ちを誰よりも知っていらっしゃるからなんですね……それから」

 渚はそこで一旦言葉を切って、小さく息を吐いた。

「それから、い、一緒に料理をしてくれたりして、それもすごく嬉しかったです。私料理をするのがすごく好きなんです……」

 羞恥に目を潤ませて、小さい声で話す渚に、和臣は一瞬、息が止まるような心地がして、ビールのグラスを握りしめた。
 彼女が、形だけの妻だということを家族に悟られないように方便で言ってくれているのはわかっている。わかっていても、和臣の胸を熱いものが貫いた。
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