契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 それは祖母と母を失ってからの二年間、渚が求めて止まなかったものだ。
 できるなら、このままずっとこの場所にいたいようなそんな気持ちにすらなった。だがそれと同時に、とてつもない罪悪感に襲われてもいた。
 自分が夢を叶えたあかつきには、この温かい人たちを少なからず傷つけてしまうことになる、と。

「小さい頃はよくここで釣りをしたんだ。釣り竿を持ってくればよかった」

 和臣の言葉に少しぼんやりとしていた渚はハッとして彼を見る。
 和臣が眩しそうに目を細めて渚を見つめていた。
 渚の頬が熱くなる。
 そして同時に、胸の奥がキリリと痛んだ。
 和臣がソファで眠っているのを目撃した、あの夜に渚の中に芽生えた不安は日に日に大きくなる一方だった。
 もし次に恋をするならば彼のような人がいいと無邪気に思うだけにしなければならないという自分自身への戒めは、あまりその役割を果たせていない。
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