契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 あいかわらずお互いに忙しい日々が続いているから、顔を合わせる機会はそれほど多くはないけれど、それでも時折目の当たりにするこの彼の笑顔に、反応してしまう胸の音は大きくなるばかりだった。
 そのたびに渚は自分自身に、こういうことはよくあることなのだと言い聞かせることにした。
 ある女優が言っていた。
 ドラマで恋人同士の役をやると、相手のことを本当に好きになったような気になると。でもドラマが終わったらその気持ちはなくなるのだ。
 今の自分はきっとそういう状態なのだろう。

「さ、魚が釣れたら焼いて食べるんですか? いいなぁ、やってみたい」

 そう言いながら渚は火照る頬を誤魔化すように首を振って、川の中へばちゃばちゃと入ってゆく。
 彼の笑顔に高鳴る鼓動を抑えることにはことごとく失敗しているけれど、せめてそれを隠し通すことだけはなんとしても成功しなければ。
 そうでなければ、いくらなんでも迷惑だと思われてしまうだろう。
 渚の話に同情して親切にしてあげたのに、本気で好きになられるなんて。
 やっぱりこんなことになるのならやめておけばよかったと彼に思われるのは嫌だった。
< 168 / 286 >

この作品をシェア

pagetop