契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「おい、あまり深いところへ行くな」

 そう言って和臣が立ち上がる。
 そして大股に近寄って、よく前も見ずに進む渚を後ろから抱えるように抱き止めた。

「っ……!」

「この先は深いんだ。……まったく渚は、危なっかしいな。少しも目が離せない」

 すぐそばで聞こえる低い声。
 普段のスーツ姿の彼とは違う野生的な香りに包まれて、渚の胸がどくんと跳ねる。

「ご、ごめんなさい」

 振り返ると、呆れたような和臣の視線。仕方がないなと言いたげなその優しい眼差しを吸い寄せられるように見つめながら、渚は途方に暮れてしまう。
 ……本当にこの想いは、結婚を解消すればなくなるのだろうか。
 でもその時、突然目の前の景色が一変して渚は思わず声をあげる。

「きゃっ⁉︎ か、和臣さん⁉︎」

 和臣が渚を抱き上げて、そのまま河岸へと戻りだしたのだ。
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