契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「ははは! もうなんなんだ、君は! 本当に、敵わないな」

 申し訳ないことをしたとは思いつつ、その笑顔を見ていたら、なんだか自分もおかしくなってしまって、つられたように笑い出してしまう。

「ふふふ、冷たい」

 だってこれじゃあまるで服のまま川で泳いだみたいじゃないか。
 いい歳をした大人が。ふたりして!
 くすくすと笑いが止まらない渚の顔にバシャンと水がかかる。
 和臣だった。

「渚は、反省しなさい」

 でもそう言われれば自分だけのせいでもないという気になって、渚はバシャンとやり返した。

「和臣さんが、無理やり連れていこうとするからです」

 バシャン。

「君が、危なっかしいからだ」

「なんですかそれ!」

 言い合いながら、バシャバシャとやっているうちにおかしくなってまたふたりして笑いだす。

「家に帰ってなんて言うんだよ! これ」

 もうどうせ濡れてしまったんだからと、最後は頭からずぶ濡れになるまで水をかけ合った。
 お腹がよじれるまで笑いながら、渚はこの帰省が終わるまではこの気持ちに身を任せていようと思った。
 渚と和臣の結婚が嘘の関係だからこそ、今はそれらしくいなければならない。ふたりの間にある空気がよそよそしかったら、彼の家族に疑いを持たれてしまうのだから。
 だから今だけは、彼に恋をしていて正解なのだ。
 きっと東京へ帰って忙しい日々に戻れば冷静になってこの気持ちも落ち着くはず。
 だから、今だけは……。
 太陽の光に照らされてキラキラと輝く飛沫に負けないくらい眩しい和臣の笑顔を見つめながら、渚はそう自分に言い訳をした。

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