契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「きゃっ!」

「なにもそんなに離さなくていいだろう。……失礼な奴だな」

 和臣は少し憮然として、渚の両脇から腕を伸ばし、布団を掴む渚の手首を取った。

「……っ!」

 少し持ち上がっていた布団が足の上にばさんと落ちた。
 まるで後ろから抱きしめられているような体勢に、渚の頬が熱くなる。
 振り向くこともできずに、渚は薄暗い部屋の襖を見つめた。
 それにしても、と渚は思う。
 昼間の川でのことといい、この帰省での和臣はいつもよりなんだか少し距離が近い。
 まるで本当の夫婦のように気軽に渚に触れる。
 おそらくは、久しぶりに故郷に帰って、リラックスしているからなのだろう。もしかしたら家族の手前、意識してそう振舞っているのかもしれない。
 それを嫌だなどとは思わないが、たびたびこんな風にされたら、とてもじゃないが渚の心臓は持ちそうにない。
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