契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 渚はピタリと動きを止めて息を呑んだ。
一瞬、なにが起きたのか分かなかった。でもすぐに、頬に感じるTシャツ越しのぬくもりと濃くなった和臣の香りに、抱きしめられているのだと気がついた。
 心臓は一段と激しく打って、もはや息苦しささえ覚えるくらいだ。
 暴れる渚を抑えようとして彼がこうしているのはわかっている。それでも胸の高鳴りは止められなかった。
 一方で和臣は渚が暴れなくなったことに満足したのか小さく息を吐いた。
 でもすぐには離してくれなかった。
 腕に力を込めたまま、黙り込んでいる。
 どきんどきんと鳴る渚の鼓動はうるさいくらいに鳴っているのに、こんなに身体をくっつけていたら、絶対に彼に聞かれてしまう。
 渚は恐る恐る口を開いた。

「あ、あの……もう暴れません」

 それでも和臣は離してはくれなかった。
< 180 / 286 >

この作品をシェア

pagetop