契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 ……油断したな。

 和臣は心の中で呟いた。
 結婚を考えていたあの恋人との別れ以来、女性とは常に線を引いて付き合ってきた。大人同士の、冷静な割り切った恋愛。それ以外は自分には必要ないと心に決めて。
 それなのに渚は、和臣が気が付かないうちに、その線をあっというまに飛び越えたのだ。
 危なっかしい子だなと、和臣が彼女に目が離せないでいるうちに。
 昨夜。
 またあの衝動に任せて彼女を腕に閉じ込めた。そしてそのまま、その柔らかい身体を抱きしめた。
 薄暗い中に浮かぶ桃色の頬、驚いたように少し開いた紅梅色の唇、甘く和臣を誘う無垢な香り。
 思わず口づけてしまいそうになった和臣をどうにか踏みとどまらせたのは、理性などという立派なものではなかったと思う。
 ただ恐れたのだ。
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