契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
『本当の夫婦ではない』

と残酷な真実を告げる唇をふさぎ、その中にある蜜を堪能してしまったら、確実に彼女との関係は終わってしまう。
 彼女の中にある自分に対する感謝の気持ちは一瞬にして消え失せて、失望し、家を出て行ってしまうだろう。
 和臣は、ただそれを恐れただけなのだ。

 ……もう引き返すことはできない。

 そう感じていた。
 女性との付き合いにおいて和臣が常に心掛けていたのはお互いにいつでも関係を解消できる位置にいること。
 和臣にとってなによりも大切なのは、弁護士としての職務をまっとうすることなのだから。
 だがおそらく、もう手遅れだ。
 まだ恋愛関係にもなっていない、気持ちを伝えてすらいないというのに、自分はもはや渚を手放したくないと思っている。たとえ形だけだとしても、この結婚を解消したくない、と。
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