契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 和臣が尊敬してやまない佐々木龍太郎は、結婚自体する気はないと言い切った和臣に、それでも家庭を持つことを考えてみたらどうだと言った。
 いつもどんなときも龍太郎の見解には感服させられるものだけれど、あの時ばかりはやはり少し古い考えだと感じた。
"男は家庭を持って一人前"などという錆びついた古い時代の基準。
 だが今から考えてみると、それだけではなかったのでは?という思いが和臣の中に芽生えていた。
 自らの時間のすべてを捧げて、弁護士活動に打ち込むうちに、ここ数年自分の身体のことは二の次になっていた。
 龍太郎から休みと食事はしっかり取れと、言われたことも何度かあった。若さだけで乗り切れる時期はそう長くはないのだからと。
 家庭を持つことで、その生活を省みることができるかもしれない、龍太郎はそう和臣に言いたかったのではないだろうか。
 実際、渚との結婚で和臣の生活は少し変わりつつあった。
 もちろん形だけの結婚だから、彼女になにかをしてもらおうなどとは思っていない。
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