契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 平日も時々は渚が起きている時間に帰ってくる。そして専門学校終わりの渚と少し遅い食卓を囲むのだ。
 同居開始当初、ふたりの間にあったよそよそしい空気はもはやない。
 田舎で過ごした時のあのふたりのまま、たわいもない話をして笑い合う、そんな日々だ。
 専門学校の方の進み具合を尋ねられることもあった。
 料理のこととなるとついつい熱が入って、止まらなくなってしまう渚の話も、和臣は優しい真っ直ぐな眼差しで、耳を傾けてくれる。
 まるで本物の夫婦みたいだと、錯覚してしまいそうになるくらいだった。
 こんな風に過ごしていて、渚の中の恋心が出て行ってくれるはずがないと渚は思う。
 いやたとえ今すぐに結婚を解消したとしてももうこの気持ちは……。
 と、その時、カウンターの上のスマートフォンが鳴る。画面に視線を移すと、和臣からの着信だった。
 テレビの方はいつのまにかニュースは終わり、アニメに切り替わっている。
 渚は味噌汁の火を止めて、電話に出た。

「はい」

《渚? 今日はごめん》
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