契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 本当ならごめんと謝っている相手に追い討ちをかけることなど言うべきではないだろう。でも優しい和臣の声音に、残念だったこの気持ちを少しだけ聞いてほしいような気がして、渚はためらいがちに口を開いた。
「……お昼過ぎに」
《うん》
「お昼過ぎに、和臣さんの実家から、新米が届いたんです」
 その言葉だけで渚の気持ちは和臣に伝わったようだった。
《もうそんな時期か》と向こう側で微笑む気配がした。
 そして優しい言葉をかけてくれる。
《だから、わくわくしていろいろ作ろうとしてくれていたんだな。本当にごめん》
「そんな大したものじゃありません!」と渚は慌てて否定した。
 わくわくしていたのは事実だけれど、作ろうとしていたのは簡単なものだった。
「せっかくだから、お米そのものを楽しみたいなぁと思いまして、シンプルにおにぎりにしようかと思っただけです。お味噌汁を添えて……」
《おにぎりかぁ》
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