契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 だから弁護士の中には刑事事件はやらないという人もいるくらいだった。
 それなのに……。

「こんなにたくさん?」

 その水色のファイルを指でたどり、渚は呟いた。
 渚が中学生の頃、父龍太郎に問いかけたことがある。

『お父さん、なぜ悪い人を助けるの?』

と。
 まだ考えが未熟だった当時の渚には、犯罪を犯した人を守る仕事がいい仕事だとは思えなかった。
 厳格な父に父の仕事を否定するようなことを尋ねるのは少し勇気が必要だったけれど、どうしても納得がいかなかったのだ。
 その疑問に龍太郎は、ゆっくりと渚にもわかる言葉で答えてくれた。

『警察に捕まったからといって本当にその人が悪いことをしたかどうかはまだわからないんだよ、渚。それは裁判官が判断するんだ。その判断材料として必ずその人にも本当にやったのかどうなのかを弁明する機会を与えられなければならない。でも皆が皆、ちゃんと弁解できる人とは限らないだろう? だから弁護士が味方になって彼らを代弁するんだ。この仕組みは素晴らしい仕組みなんだよ。だからこの仕事は絶対に誰かがやらなくてはいけない仕事なんだ』
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