契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 誰かがやらなくてはいけない仕事。
 お金になるとか、ならないとかそんなことは関係なく、社会に必要とされている役割。
 それを自身が可能な限り引き受ける。
 それが、弁護士瀬名和臣なのだ。
 渚は、父が彼を渚の見合い相手に選んだ理由を、今本当の意味で理解した。
 父は、和臣のこのような本質を高く評価しているのだ。
 本当に、奇跡のような人だと渚は思う。
 いったい今までどれだけの人に生きる希望を与えてきたのだろう。

「お父さん、私にはもったいないよ……」

 水色のファイルを見つめながら渚はポツリと呟いた。
 渚など、結婚相手どころか、ただの見合い相手としてももったいないくらいの人だ。
 きっと和臣にとっては渚もこの水色のファイルのひとつに過ぎないのだと思う。彼は、困っている人、助けを求めている人が目の前にいれば、手を差し伸べずにはいられない人なのだから。
 きっと渚が夢を叶えたあかつきには、それを心から喜んで、あっさりと渚のもとを去るだろう。
 それでも……。
 それでも渚の中の彼を愛おしいと思う気持ちはもう止められなかった。

「和臣さん……」

 手にしていた携帯をギュッと握りしめると、一筋の光が渚の頬を伝った。

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