契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 その父に反発する気持ちはありながら、渚がそうしなかったのは、伴侶を失って気落ちする父にこれ以上余計な心配をかけたくないという思いからだったのかもしれない。
 でもそもそも、渚にも父に反抗するだけの気力がなかったとも思う。
 結局渚は、父の言う通り佐々木総合法律相談所に就職した。
 今から思えば、あの時お弁当屋をやりたいと言ったのは、短期間で大切な人を相次いで失ったという空虚な気持ちをなにかで埋めたいという思いからだった。
 とにかくあの温かい場所を取り戻したいという……。
 そうしなければ、祖母と母が本当にいなくなってしまうような、そんな気になっていた。
 そして、やはりそんな状態では、たとえ弁当屋を始めたとしても、きっとうまくいかなかっただろう。
 確かに父の言う通り、当時の自分は働いたことすらない甘ったれで世間知らずだったのだから。
 でも今は……。
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