契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 なるほど、周囲からはそう見えるだろう。実際結婚を決めた時点で、ふたりの間に愛情はなかった。
 でも今は、少なくとも和臣の方は渚を深く愛している。
 和臣にとってこの結婚は大切な彼女とのたったひとつの繋がりだ。誰にもなにも言われなくないという気持ちで頭の中がいっぱいになった。
 だが実際のところ、誰にでも胸を張って正真正銘の本当の結婚だと言えないのも事実で、それが和臣を苦しめていた。
 ……だったらいっそのこと今すぐにでも、本当の結婚に変えてしまえばいいのでは?
 穏やかではない、どこか獣じみた考えが心の奥底で目を覚ますのを和臣は感じていた。
 父親からの自由、それだけを望んで渚は和臣と結婚をした。それはおそらく今も変わらないだろう。
 厳格な父親に守られて、本当に身も心も無垢なまま、咲き続ける美しい華。
 自分はその華を、直接父親から託されたのだ。
 ……どうしようと、俺の自由だ。
 ほんの少し触れるだけで、真っ赤に染まる小さな耳。そこに溢れんばかりの愛を囁き、桜色の唇を塞いで、腕の中に閉じ込める。愛がなにかもまだわからない彼女に、すべてを初めからおしえ込む。
 そして彼女の頭の中から、形だけの結婚などという言葉は跡形もなく消し去ってやる!
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